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第九話 侮辱の代償

ニャンピンガはまず、何をすべきかを考えた。


(まず何をすれば良いんだ?)


頭の中で問いを反芻する。腕を組み、視線を落とすと胸の奥がざわついた。


(「騎士」って言えば……剣だよなぁ)


リーベに助けられたあの瞬間の光景が、鮮明に蘇る。リーベの手が剣の柄をしっかりと握り、冷静に敵を制していたあの背中。あのときの安心感と畏怖が混ざった感覚が、今もニャンピンガの胸に残っている。


訓練場を見渡すと、そこは汗と金属の匂いが混じる世界だった。魔法の符を編む者、盾を受け止める者、剣を振るう者――ほとんどが魔法騎士団員だ。彼らの動きは無駄がなく、音は規律を帯びている。ニャンピンガは自然と剣を合わせている二人の団員に歩み寄った。


「なぁ、ちょっといいか?」


二人は訓練の手を止め、振り向く。表情は軽く、どこか余裕がある。

「「あ?」」


ニャンピンガは平然と、しかし真剣に問うた。

「剣ってどこで手に入るんだ?」


一瞬の間。二人は顔を見合わせ、片方が鼻で笑うように言った。

「お前、養護施設の奴か?」


「ああ」


その言葉に含まれた軽蔑が、ニャンピンガの肌を冷たく刺す。二人は半笑いを浮かべ、嘲るように続ける。

「ふっ……お前、何にも知らねぇんだな」


「は?」


「剣は自分で買うんだよ。金がなきゃ話にならねぇ」


「施設の奴が魔法騎士団に入るとか……マジかよ」


言葉は刃のように鋭く、周囲の空気に小さな波紋を立てる。ニャンピンガは顔をしかめる。胸の中で、ネモの言葉が反芻される――十八歳からはここを出て仕事を探さねばならないという規則。現実の冷たさが、言葉の端々から滲み出していた。


(そういうことか……真っ当な仕事を探せって、こういう意味なんだな……)


だが、諦める気はなかった。ニャンピンガは少し反抗的な口調で言い返す。

「別にいいだろ?魔法騎士目指したって」


二人は忍び笑いを続ける。片方がさらに嘲るように言った。

「施設出身の魔法騎士なんて聞いたことねぇぞ。大人しく自分にできる仕事を探しとけよ」


その言葉は、ただの侮蔑ではなかった。ニャンピンガの生きてきた世界を一言で否定するような冷たさがあった。彼は剣どころか、物資を買う金すら持っていない。だが、その現実が彼の決意を揺るがすことはない。


二人が訓練場を離れようとする。ニャンピンガは短く声を張った。

「待て」


振り向きざまに、苛立ちを含んだ声が返る。

「だから何だよ?」


ニャンピンガは一歩前に出て、真っ直ぐに言う。

「オレに剣を貸してくれないか?」


二人は呆れたように顔をしかめる。

「俺らがお前みたいな一文無しに物貸すわけねぇだろ」


「呆れた。行こうぜ」


(無理か……)

と、ニャンピンガは一瞬思う。別の誰かに頼ることを考え始めたそのとき、片方の団員が吐き捨てるように言った。


「どうせろくでもない親に育てられたんだな……可哀想に」


その言葉が、ニャンピンガの胸の奥で何かを切断した。時間がスローモーションのように歪む。周囲の音が遠くなり、心臓の鼓動だけが耳の中で大きく響いた。記憶の中の家族の顔が、怒りと痛みとともに一気に押し寄せる。


(は……? 今、何て言った?)


気づけば、ニャンピンガは駆け出していた。足が地面を蹴る感触、風が耳を打つ音、拳を握る手の熱さ。次の瞬間、彼の拳は相手の頬にめり込んでいた。


「「!?!?!?」」


一発で一人が崩れ、もう一人は手で殴られた箇所を押さえ、震えている。訓練場のざわめきが一瞬で凍りつく。誰かが息を呑み、誰かが足を止める。空気が重く、時間が止まったように感じられた。


「お、お前!こんなことして許されるとでも――」


団員の声は震えている。だがニャンピンガの声は冷たく、揺るがなかった。

「関係ねぇよ。オレは、オレの家族を侮辱したお前らを許さねぇ」


その言葉に、彼の瞳は死んだように冷たく光る。拳を振り上げ、再び殴りかかろうとしたその瞬間――


『待て』


静かだが底知れぬ重みを帯びた声が、訓練場の空気を切り裂いた。声の響きに、周囲のざわめきが一斉に消える。風が止み、鳥の鳴き声さえ遠のいたように感じられる。ニャンピンガの拳は、相手の顔に触れる寸前で止まった。


声の方へ視線を向けると、そこに立っていたのは中年の男だった。グレーヘアーに、鋭く光るイエローの瞳。彼の立ち姿は簡潔で、無駄がない。マントがそよ風に揺れるたび、周囲の空気がさらに引き締まる。


団員の一人が震える声で叫ぶ。

「ぱ、聖騎士パラディン……フレッド様……!」


彼の瞳は冷徹にこちらを見据えていた。

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