第二十七話 新しい自分
「ここって、服屋か?」
ショーウィンドウに並ぶ服を見て、ニャンピンガは声を上げた。
ネモは明るく頷く。
「うん。入ろう」
―――
店内は想像以上に広く、照明に照らされた布地が柔らかく揺れている。棚やハンガーには色とりどりの服が整然と並び、香りはほのかにリネンの匂いが混じる。
ニャンピンガは思わず息を呑んだ。
「すんげ……」
ネモがにこりと笑う。
「好きなの選んでいいよ。」
ニャンピンガは慌てて首を振る。
「え、でもオレ、金持ってねぇよ……?」
ネモは少し呆れた声色で言う。
「もう、察しが悪いなあ……
私が出すからニャンピンガ君はお金を持っていなくていいの!だから着たい服を選んで!」
ニャンピンガは驚く。
「はあ……!?どうして……!」
そんなニャンピンガにネモは照れくさそうに言う。
「合格祝いだよ。ニャンピンガ君が無事に魔法騎士団試験に合格したお祝い」
「……!」
(ネモ……)
ニャンピンガは胸が暖かくなるのを感じた。
ネモは微笑んだ。
「だから遠慮しないで。着たいのを選んで」
ニャンピンガは素直に感謝する。
「ああ……ありがとな……」
―――
ニャンピンガは店内を歩き回る。
どれを選べばいいのか分からず、真剣な顔つきで服を眺める姿は、まるで戦場で間合いを測るときのようだ。
ネモがからかうように言う。
「ニャンピンガ君、真剣になりすぎて目つきが怖いよ」
そのとき、柔らかな声が近づいた。
「何かお探しでしょうか?」
店員の女性が微笑みながら近づく。
ネモが説明する。
「彼に似合う服を探しているんです。何かおすすめはありますか?」
店員は頷き、丁寧に案内を始めた。
「お任せください。彼の雰囲気に合うコーディネートを考えますね」
―――
試着室の扉が開き、ニャンピンガが現れる。
ニャンピンガの姿は、さっきまでの不安げな少年とは違って見えた。
襟元を革紐で編み上げたオフホワイトのコットンチュニックに、深いネイビーのダブルボタンベスト。
チャコールグレーの細身トラウザーズに、ダークブラウンの太めのレザーベルトと小さなポーチを下げている。
全体の色合いが顔周りを明るくし、髪色を引き立てていた。
ネモは目を輝かせる。
「ニャンピンガ君、かっこいいよ!」
店員も喜ぶ。
「とてもお似合いです!」
店員は胸を張って言った。
「どうです!オフホワイトが顔色を明るく見せ、お客様のスマルトの髪色を鮮明に引き立ております!ボトムスも黒ではなくチャコールグレーにすることで、全体が重くなりすぎず、軽やかさが出ているでしょう!」
ネモは思わず拍手をする。
「すごいです……!流石です店員さん!
私ファッションに詳しくないですが、何かベルトとポーチも実用性が出ている感じがして、すごくオシャレです……!」
ネモと店員は早口口調だった。
(何かって……何だよ……)
ニャンピンガは思わずツッコミたくなった。
「これ着て帰ります……!」
「え……」
ネモはそのまま勢いでニャンピンガの代わりに答え、会計へレジに向かった。
(“試着室”って何てものあるんだな……初めて知った……)
ニャンピンガは試着室の鏡の自分を見つめ、手が震えるのを感じた。
心の中で小さな声がする。
(これが……オレ……?)
その間にネモが会計を済ませていた。
店員が伝票を差し出す。
「合計で321ガルドになります」
「はい、お願いします」
「お買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「ニャンピンガ君行こう」
「ああ……」
整理が追いつかない気持ちのまま、店を出た。
―――
店を出ると、外の光が眩しく感じられた。
ネモが笑いながら言う。
「ニャンピンガ君行くよ」
「え、まだ行くのか?」
「『まだ』って。一件しか行ってないよ?
行きたいところはたくさんあるんだから……!」
ネモはニャンピンガの手を引いて駆け出す。
「え」
驚きと興奮が混ざった声が街に響いた。
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
賑わう街の通りに、二人の笑い声が弾ける。




