第二十八話 クセ強店員、現る
「ここは……靴屋か?」
「うん。そうだよ」
次に訪れたのは靴屋だった。
ネモはネモは軽やかに歩きながら言う。
「靴もファッションの一部だし、借り物の靴じゃ落ち着かないでしょう?」
(そういうものなのか……)
ニャンピンガは内心で呟きつつ、ネモについて行く。
―――
二人は店内へ入る。
ドアベルが鳴り、革の匂いと整然と並んだ靴が迎える。棚の列は果てしなく続き、ニャンピンガは思わず目を丸くした。
「え……広っ!」
「靴だけでもこんな種類があんだな……」
ネモが笑う。
「すごいでしょう?私も初めて来たときは驚いたよ。さあ、ニャンピンガ君、履きたいのを選んで」
ニャンピンガが戸惑いながら靴を眺めていると、店員がにこやかに近づいてきた。
「いらっしゃいませぇ。何かお探しでしょうかぁ?」
だがその笑顔はどこか計算高い。胸元の名札を軽く叩き、声は過度に丁寧だ。
「お客様にぴったりの一足、ご案内いたしますよぉ」
ネモが説明する。
「彼に合う靴を探しているんです。おすすめはありますか?」
店員の目がニャンピンガの服装に一瞬止まる。
(ふぅんこの少年…なかなか高価な服を着ている…)
口元に小さな笑みが浮かび、手をひらりと振る。
「お任せくださいませぇ。では、こちらの一足などいかがでしょうかぁ――上質なダークブラウンのレザーブーツでございますぅ。履き込むほど味が出ますしぃ、今日のようなお召し物には格別に映えますよぉ。お値段も……ええ、良い品でございますぅ」
店員はブーツを取り出すと、わざとらしく革を撫で、誇張した所作で見せびらかす。ニャンピンガは思わず声を漏らす。
「おお……」
「どう?ニャンピンガ君」
ネモが尋ねる。
「気に入った」
ニャンピンガは素直に頷いた。
(いよぉーし…!)
店員は心の中でガッツポーズを決めた。
だがニャンピンガはすぐに顔を曇らせる。
「でもこれ、何かよく分かんねぇけど高そうじゃねえか?」
(はぁ?何言ってんだこの小僧!いかにも金持ってそうな格好なんだから今すぐ買えや…!)
店員はさっと近づき、耳元でささやくように言う。声は甘く、しかしどこか商売っ気が滲む。
「こちら、非常に人気がありましてねぇ。数に限りがございますぅ。今お決めいただければぁ?特別にお手入れセットもお付けしますよぉ。お客様のような方にはぜひお持ちいただきたい一足でございますぅ」
ニャンピンガが値段を気にしていると、店員は一瞬だけ眉を上げ、すぐに満面の笑みを戻す。
「お値段は少々張りますがぁ、長く使えますぅ。投資だとお考えくださいませぇ。……あ、こちらはお支払い方法も各種承っておりますので、ご安心を」
ネモは言う。
「ふふ…ニャンピンガ君が気にすることないよ」
(というか、私が払うんだけどね……)
「お会計お願いします」
店員は心の中でツッコむ。
(この娘が出すんかい…!)
ネモが財布を取り出すと、店員の目がキラリと光る。手を合わせる仕草でさらに丁寧に。だがその動作はどこかコミカルに速い。
「それでは、合計で182ガルドでございますぅ。お会計はお済みでしょうかぁ?」
ネモが支払いを済ませると、店員は大げさにお辞儀をし、声を張る。
「誠にありがとうございますぅ!本当に良いお買い物でございますぅ!またのお越しを心よりお待ちしておりますぅ!」
その言葉に、ニャンピンガは店員の過剰なテンションと、さりげない視線の動きに気づく。
(語尾ウザっ!!!)
―――
店を出ると、ネモが小さく笑って呟いた。
「言っちゃいけないけど、あの店員さん、ちょっと商売っ気が強すぎたね」
「そうか?」
ニャンピンガは靴の重みを足先に感じながら答える。
(店員がウザかったからか…?)
店員の声が背後でまだ響いているように思えた。
ネモは手を引き、次の店へと歩き出す。
「さ、次行こう!」
「ちょっと、そんなに引っ張らなくてもいいだろぉぉぉ!」
通りにはまだ、二人の笑い声が弾けていた。店員は店の奥で小さくガッツポーズをしている――が、その姿は外から見るとただの店員の背中でしかない。




