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第十九話 『部位指定攻撃試験』、『盲目の試練』

「続いては部位指定攻撃の試験になります」


会場の一角に、アロファの声が冷たく響く。


「目の前にある人形の、指定された急所を外した特定の部位を正確に打突できるかを問います。人形を壊さずに制圧する『技術の精密さ』を測る試験です。時間は三分、命中精度と力の加減を見ます。準備はよろしいですね?」


ニャンピンガは剣を握りしめる。


目の前には木製の人形が立ち、関節ごとに細かな目印が付けられている。人形の胸部には赤い円、腕の付け根には青い印、脚の付け根には緑の印。アロファが続ける。


「指定はランダムです。急所は外してください。人形の破損は減点対象」


「では、始め!」


―――


部位指定攻撃試験のルール

- 時間:三分間で複数の指定に対応。

- 指定:審査官がランダムに示す部位(腕、脚、肩、腰など)を急所を避けて正確に打突。

- 評価:命中精度(的中点)、力の加減(破損ペナルティ)、動作の無駄(流れの良さ)。

- 減点例:急所直撃、関節破壊、人形の転倒。


―――


ニャンピンガの最初の指定は右腕の付け根(青)。

彼は勢いよく踏み込み、斬り下ろす――が、力任せに入ったために刃が深く入りすぎ、木製の関節がひび割れてしまう。


(まずい……)

ニャンピンガは心の中で呟く。


フレッドの稽古は“力を伝える”ことを重視していたが、急所を外して力を調整する細かい打ち方はあまり教わっていない。ニャンピンガの一振りは“強さ”は示したが、“精密さ”を欠いていた。


次の指定は左脚の付け根(緑)。

ニャンピンガは今度は力を抜いて突きを試みるが、距離感を誤り、わずかに外す。刃は空を切り、チャンスを逃す。時間は刻々と減る。


審査席のアロファは冷たい視線を向けたまま、短く記録を取る。


(力の調整は出来ているけれども、間合いの詰め方が雑ね……急所を避ける“角度”と“刃の入り方”を意識出来ていない……)


ニャンピンガは拳を握りしめる。悔しさが胸を締め付ける。


最後の指定は肩の外側(黄)。

彼は深呼吸をして、刃を短く振る。だが、やはり刃が少し深く入り、関節の一部が欠けてしまう。アロファの合図で試験は終了した。


「そこまで!」

「お疲れ様でした。次の試験に移ります」


ニャンピンガは肩を落とし、悔しさで拳を握りしめる。


(オレがしっかりしていなかったからだ……)


―――


アロファは一度会場を見渡し、次の試験を告げる。


「続いては特殊環境試験、“盲目の試練”です。目隠しをした状態で人形を剣で叩き落としてもらいます。視覚に頼らず、気配と音で間合いを把握できるかを評価します。準備ができたら魔法陣へ」


ニャンピンガは手汗を感じる。視界が奪われるということは、これまでの“目で見る”戦い方が通用しないということだ。だが、胸の奥で何かが燃え上がる。師匠フレッドの声が蘇る。


――目で見るな。音で読むんだ。足音、呼吸、剣先の風切り音、全部で相手を感じろ


ニャンピンガは魔法陣に立ち、視界が一瞬で暗くなる。周囲の音が鋭くなる。自分の呼吸、剣の柄の感触、地面に伝わる振動――それだけが頼りだ。


「盲目の試練、始め!」


―――


暗闇の中、何も分からない。手探りで一歩踏み出すと、草の擦れる音、遠くで枝が折れる音が聞こえる。


最初は空振りが続く。

剣は空を切り、風だけが返ってくる。


(あ、あれ……?)


審査席のアロファは魔法の映像でニャンピンガの動きを見つめ、低く呟く。


「この試験は視覚に頼らず、風切り音や気配で間合いを把握できているかを評価するもの。どう切り抜ける……?」


(いや焦るな……!)


だが、ニャンピンガは焦らず、呼吸を整え、耳を研ぎ澄ます。


(師匠と剣の稽古をした時を思い出せ…!師匠は速すぎて姿が全然見えなかったから気配で探っていただろ…!オレ…!)


師匠の稽古で鍛えた“間合い”が、少しずつ形を成していく。


小さな葉擦れ、土の微かな飛び散り、空気の流れの変化――ニャンピンガはそれらを“点”として結び、相手の位置を推定する。


剣を軽く振ると、刃先が空気を切る音が変わる。近いときは風切り音が鋭く、遠いと鈍い。ニャンピンガはその違いで距離を測る。


(ここだ……!)

そう感じて剣を振ると、木製の人形の腕がばたりと落ちる音が暗闇に響いた。


ニャンピンガは小さく息を吐く。成功だ。だが、まだ完璧ではない。次の標的を探ると、今度は羽虫の群れの羽音が耳をかすめる。群れの密度を読み、枝を使って群れを一箇所に集めてから斬る――その判断も、暗闇の中で行った。


ニャンピンガは汗を拭い、暗闇の中で再び集中する。何度かの試行の末、彼は剣先の微かな抵抗で人形の位置を確定し、正確に叩き落とすことに成功する。完璧とは言えないが、確かな進歩だ。


―――


試験が終わり、視界が戻る。ニャンピンガは膝をつき、息を整える。アロファは中に浮いている審査席から静かに立ち、降り立つ。


「お疲れ様です。次の試験会場を用意します」


ニャンピンガは悔しさと安堵が混ざった表情で拳を握る。胸の中で、師匠の教えと家族、仲間たちの言葉が重なり合う。ニャンピンガはまだ未熟だが、確実に前に進んでいる――そう実感していた。

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