第十四話 試験開始の鐘が鳴る
「ニャンピンガ君!早く!」
「おいネモ、そんなに急がなくても大丈夫だって……!」
魔法騎士団入団試験当日。
ネモはニャンピンガより気合が入っている。試験会場は訓練場で、試験の日だけ特別に貸し切りになる。二人は朝の冷たい空気の中を歩きながら、会場へ向かっていた。
「集合は八時半だろ?あと十分もあるぜ?」
「何言ってるの、ニャンピンガ君! その十分で気持ちを落ち着かせるの!だから早めに着いておくのが大事なの!」
ネモは早口で返す。
ニャンピンガは呆れ顔で肩をすくめた。
試験の要項は簡潔だ。
- 八時半 受験者集合・持ち込み武器の安全点検(粗悪品や不正な魔道具は厳重チェック)
- 九時 午前の部:基礎能力試験
- 十二時 昼休憩
- 午後 実戦技能・対人能力試験
- 十六時 試験終了、休憩の後に合格発表
(ついにこの日が来た……父さん、母さん、じーちゃん、みんな、オレ頑張るからな…!)
ニャンピンガは心の中で誓う。
拳を固く握るニャンピンガにネモが、にわかに真剣な声色で訊ねる。
「ニャンピンガ君、準備は抜かりないね?」
「ああ! 師匠から預かった剣もここに……って、あれ?」
ニャンピンガの顔が一瞬で青ざめる。
「どうしたの?」
「剣……部屋に置いてきたかも……」
「えっ……!」
二人は固まる。
時間は刻一刻と迫る。
二人は慌てて走り出した。
―――
養護施設へ戻る道は、いつもより遠く感じられた。ネモは息を切らしながらも必死に走る。ニャンピンガも全力で駆け、扉を蹴って部屋へ飛び込む。剣箱を掴み、冷たい金属の柄を握った瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなる。
二人は会場へと走る。
「やばいよ……! 間に合わないかもっ……!」
(まずい……!)
そう感じた瞬間、ニャンピンガは地面を蹴り、超加速していた。
「……!ニャンピンガ君……!」
(すげぇ……今のオレ……風のようだ……)
加速したニャンピンガにネモは追いつけず、後ろから叫ぶ。
「ニャンピンガ君、ファイト!」
―――
「はぁ……はぁ……はぁ……何とか間に合った……」
集合時間ちょうどに、ニャンピンガは会場に滑り込んだ。
持ち込み武器の安全点検を受け、ようやく一息つく。周囲を見渡すと、自分以外にも受験者がいることに気づいた。
一人はエクルベージュの髪にエメラルドグリーンの瞳の少年、もう一人はパステルピンクの髪にサファイアブルーの瞳の少女。二人は互いに顔見知りのようだ。
ニャンピンガは軽く声をかける。
「よお!アンタたちも受験者?」
「は、はいっ……!」
少女が小さく答え、少年が前に出て説明する。
「すみません、コイツ人見知りでして。打ち解けるのは早いんですけど」
「そうか。二人は知り合いなのか?」
「ええ、幼馴染です」
少年が答える。
自己紹介のやり取りはテンポよく進む。
「オレはニャンピンガ・イントワーリ。よろしく」
「僕はヴァイン・スナルヴィンドゥル。彼女は……」
「ローレグル・ヴァトンです……よろしくお願いします」
少女は小さく一礼した。
ニャンピンガは手を差し出す。
「ヴァイン、ローレグル。二人ともよろしくな!」
「はい。よろしくお願いします。ニャンピンガさん」
ヴァインと握手を交わす。
その時―
「ようこそお越しくださいました。受験者の皆さん」
会場に低く通る声が響いた。
泡と共に現れたのはスカイグレーのショートヘア、フォグブルーの瞳の女性。
彼女はゆっくりと自己紹介を始める。
「受験者の皆さん、お集まりいただきありがとうございます。私は元魔法騎士団副団長、聖騎士アロファ・ポウポウ・ポトと申します。本日の試験官を務めさせていただきます。よろしくお願いします」
小さなざわめきが起きる。
ヴァインとローレグルは顔を見合わせ、囁く。
「アロファって、あのアロファ副団長……?」
「“伝説の時代”の、あのお方だよね……?」
(“伝説の時代”……?)
アロファは静かに壇上を見渡し、訓示を始めた。
「皆さん、今日はただの試験ではありません。これは王と民を守る者としての資質を問う場です。
我らが王は、この国の象徴であり、秩序の中心であらせられます。王の下に秩序が保たれるとき、民は平穏に暮らすことができる。ですが秩序は自然に生まれるものではありません。守る者がいて初めて成り立つのです。
魔法騎士とは、単に強さを誇る者ではありません。弱き者を守る覚悟を持ち、暴力を正義と混同しない知恵を持つ者であります。剣は力を与えるが、同時に責任を課します。力を振るう前に、常に自らの心を問いなさい。王のため、民のため、世界の平和のために何を為すべきかを。
世界平和とは遠い理想に聞こえるかもしれません。ですが小さな秩序の積み重ねが、やがて大きな安寧を生みます。あなたたちが守る一つ一つの村、一つ一つの命が、やがて国を、そして世界を安定させるのです。
今日、我々は技量を測ります。ですが同時に、覚悟と節度を見ている。剣の振るい方だけでなく、心の在り方を示しなさい。あなたたちの行動が、王と民、そして世界の未来に繋がることを忘れぬように」
アロファの言葉が会場に染み渡る。
声は落ち着いているが、言葉には重みがある。
静寂の後、受験者たちは一斉に息を飲んだ。
ニャンピンガの胸にも、言葉の重さが深く刻まれる。彼は剣を握り直し、覚悟を新たにした。
(ついに……始まったんだ……魔法騎士団入団試験……!)
会場の空気は引き締まり、試験の幕が上がる。




