白亜の砂城◇
あぁ、愛しき命を包もうか
大いなる光よ、導きたまえ
我等は光の守護者となろう
愛しき光華よ
どうか咲き誇れ
~失われし、歌の一片~
あぁ、叫びたい。
何が悪いのか、と。
ちりちりと精神が焼け焦げる中で、長い時を共にし、何千、何万とも振り下ろした動作を振り下ろす。けれども、その動きは今までの中で一番遅く鈍い。
簡単に振り下ろされた武器が弾き飛ばされて、身体がよろめいた。
「無様だな」
膝を着き、肩を大きく上下させながら口を開いて呼吸をしている所、上から本当に憐れんでいるという声が降ってきた。
その声に自然と笑みが浮かぶ。
「へぇ、まるで鏡になった気分だ」
「…随分、対照的な鏡な事だな」
「全く…全くだ、けれど…」
足に力を込めて立ち上がる。一度だけ深く息を吸い、理性の糸を手放さない様に今一度、背筋を伸ばした。誇り高く、孤高なる者に並ぶ為にも、気高くあれ。そう、心の中で呟いて。
「果たして、個を救う為に罪人になったとしても…覚悟はどちらがあるのだろう?」
一人は、個を救う為に血の沼に這う罪人となった。
一人は、個を救う為に闇の檻に蠢く罪人となった。
相手は目の前の笑みを静かに見つめ、瞳を閉じる。その姿はまるで罰を受ける咎人の如く。
そして、そのまま瞳を開くと、片手に弱々しく握り締めていた武器を持ち上げる。
「…この覚悟は、誰にも負けるつもりはない」
「そうかい。個を免罪符に逃げる臆病者が、負けなど口にするのも愚かしい」
言われた言葉に吐き捨てるように告げて、同じく重い腕を持ち上げた。
「罪人よ、貴様には処刑が相応しい。…私もね」
あぁ、叫びたい。
どうしてこうなった、と。
澄んだ歌声が響く中で、晴香は目が覚めた。彼女の開かれた目に最初に映ったのは、幻想的な世界だった。赤・青・緑と黄色の水晶が地面が天へと向かって生えているそれは、光を灯し。中心には巨大な白い石の、茨の絡まる噴水が涼やかな水音を奏でている。
その噴水の縁に腰を掛けた存在は、噴水に絡まる茨に咲く百合に似た白い花を優しく花弁を指の腹で撫でた。
「やぁ、目が覚めたかい?」
花を撫でていた手を止めた人物が、暢気な声で晴香に話し掛けた。振り返ったその人物は、藍色の肩までの髪に、深紅の瞳を持った。猫の様な雰囲気を醸し出す、白い肌をした小柄な少女だ。銀糸で波の様な刺繡が施された白のビスチェ、縁が銀の光を放っているので金属で固定されているのだろうか。腰よりも少し低い位置で薄手の下へと向かう程に透けていくグラデーションの布地で、作られた深いスリットの入ったスカート。靴は履いておらず、足首に金の細い輪を幾つもはめていた。
「まだ眠い?それは悪いけれど、これを逃す訳にはいかないんだ」
ぼんやりとする頭の中で、晴香は微笑むその存在を良く見る為にも身体を起こした。胸がデカイ。
いや、胸の鎖骨の下の中央部には、白い丸い半分に欠けた玉が埋められている。
「…貴女は?」
それとなく、晴香は自身の胸を確かめて落胆しながらも。気を取り直して、名前を尋ねる。
「シェラだよ。シェラ・ローン・ディウス」
シェラと名乗った存在は「で?」と、呟いて小さく首を傾げて瞳を瞬かせる。
「君は何と呼ぶべきかな?」
「私は霜貫晴香です」
「…あぁ、だからシモーヌか!」
晴香の自己紹介に、シェラは瞳を輝かせて大きく頷くと立ち上がる。
「成る程、凝ったグラさんも愛称を付けるとは成長したね。だけど、ちょっとだけ説明不足だったよ。まぁ、君も知ろうとしていなかったから…ねぇ?」
「説明不足って…何ですか?」
「うん、この世界の事…さすがに、生まれて育った世界とは違うでしょ?魔物が居る所とか」
首を傾げて尋ねるシェラに、晴香の心臓が跳ね上がった。息を整えようと震える口を開いたが、それよりも先にシェラが深紅の瞳を閉じてからくるりと晴香に背中を見せて、両手を広げる。
「まぁ、それよりもこの景色はどうだい?この景色は私の今までの見てきた何よりも美しく、思い出が多いんだ」
「え、あ…うん。凄く、綺麗」
「そうだろう?何たって、我等が王しか入れぬ聖域で、昼間だと誰も来ないからサボるのに最適なんだ」
何か、聞き捨てならない説明があった。
晴香が周囲を見て、シェラに同意したのに彼女は胸を張って「ちなみに、この噴水の縁で眠ると気持ちいいんだ」と、噴水の縁を片手で数回叩いて瞳を細めて笑う。
「さて、まぁ…何だろうね。まずは何を説明するべきかねぇ…さてさて?」
首を傾げて「んー?」と声を出して首を傾げているシェラに、晴香は少しだけ迷って片手を挙げた。
それに気付いたシェラが声には出さずに、瞳を瞬かせて晴香の顔を見て言葉を待つ。
「此処は、何処ですか?」
「聖域『光華への道』だよ?」
「…何処?」
「ん?…ぁあ!成る程!景色では無く、この空間という事で間違いは無いかい?」
シェラのやっと質問の意味に気付いたのに、晴香は何度も頷く。それに、彼女も一度頷き返して右手をゆるりと上げた。
「そうだね、色々と変えた方がわかり易くもあるか」
そうシェラが呟いて、右手の広げていた掌をまるで何かを掬い取る様に軽く円を描きながら握り締める。すると、今まで美しい夜の幻想的な世界が欠片の様に砕けて一切の濁りも無い白い世界に変わった。
「な!?」
「ようこそ、シモーヌ…『私の命煌』の中へ、歓迎するよ?」
驚いている晴香を、シェラはケラケラと声を上げて笑いながら。口の端を吊り上げて歪んだ笑みを浮かべた。
さぁ、始まるよ!
何と美しきマリアが今度は悲劇的な、けれども美しき愛を貫いた
あの、歴史の中で一番美しいと謳われたサントゥーラ王妃を演じるよ!
しかも、今回は何と!
王妃の旦那であるディアラン国王と、国にこの騎士ありとされた誉れのヴォルダム騎士団長!
おなじみに三角関係が、更に国を憂う公爵のタウレスとの四角関係!
さぁさぁ、旅する麗しき旅団【白き乙女】が開演するよ!
~とある街の一角~




