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幻想譚   作者: 国分
13/14

魔物の王7◇


ほら、運命の時はくるよ。


望んだ事だ、君達が。


選んだ事だ、私達が。


悲しんでも構わないよ、存分に嘆くと良い。


時は止まらない、残酷に。


そう、この残酷な世界!


さぁ、選択の時だ!


~時の門番の語り~

業火に包まれた空間で、一人は笑い。もう一人は怒る。辺りには二人以外に誰も居ないその場で、先に口を開いたのは。


「残念だなぁ。再会を喜び会って、互いに抱き締めるのを。一度はやってみたかったのに」


肩を下げた少女は、小さく息を吐き出して、目の前の今にも殺そうとする男へと首を傾げる。


「それで、グラさん。この剣を退いてはくれないの?」

「そうだな…嘘偽りなく、聞いた事に答えてくれりゃぁ…剣を退けてやる」


男の言葉に、少女は深紅の瞳を瞬かせて、クックッと喉を鳴らして楽しそうに頷いた。


「強欲な人間は、何時も見ていて可愛らしい。まるで、何でも欲しがる幼子だ」

「殺すぞ」

「なら、私もグラさんを殺す事になるね…それは嫌だから、撤回するよ」


ぐっと首筋に寄った剣を、シェラは添えている指で元の位置まで押し戻す。咄嗟に少女の指を斬り落とすつもりかと怒鳴りそうになったが、グラハムは口を開いた瞬間でその言葉を飲み込めた。


「良いよ、グラハム・ダイン。私は…シェラ・ローン・ディウスは、君の問いに嘘や偽りは無く、答えよう」

見えぬ刃での勝負が始まった。



グラハムは、シェラの宣言を耳にして悟られぬ様に息を飲む。


「…目的は何だ」

「この少女の命を助ける事」

「シモーヌに、何を言った?」

「彼女の命を助ける事を約束して、貸してもらう事と。ジークを探して欲しいと頼んだ」

「借りるのは…シモーヌの身体か」

「ユフクスでも、肉体が無いと動けないんだよね」

「ジークは何で探すんだ?」


グラハムの問い掛けに、シェラが小さく微笑む。


「会いたいだけだよ」

「あの『魔物』は何だ?」

「魔物でしょう?」

「…質問を変える。『あれ』を知っているのか?」

「魔力は感じていたよ。実物は今、初めて見たけどね」


「…ユフクスに、関係があるのか?」

「どんな関係?」



一瞬の沈黙。



「全てを話せ」

「全て、ね」


グラハムの問いにシェラは深紅の瞳を細めて、剣に添えている指を数回だけ上下に動かして剣を叩く。


「…ユフクスの関わりは無いよ。勿論、私も…この十年で関われると思う?」


肩を竦めて、シェラは首を振る。


「誰かは関わりたいんじゃないかな?」

「誰だ?」

「誰だろう?」

「ふざけてるのか?」

「いいや、今のは君の為に、口にした」

「お前の敵は?」

「今の所は、この娘を害する存在だね」


グラハムは次の質問をのんびりと待つシェラを睨むと、ゆっくりと剣を退く。


「…もぅ良いの?」


シェラは静かに離れてゆく剣を横目で眺めながら、眠そうに口を開ける。そんな彼女の態度を、グラハムは鼻を鳴らして不愉快だと分かる声色で返した。


「シモーヌじゃなきゃ、

このまま斬り捨てた」

「…嘘だね、グラハム」


グラハムの言葉にシェラが眠たげな目を、愉快だと細めて立てていまままであった人差し指を、胸の中央の心臓部に向けた。


「グラハム・ダイン。君は優しい、だからこそ。もし、私が自身の命輝を砕けと告げた所で、それは出来ない」

「そうかい」

「そうだよ。だからこそ、私は君が好きだ。人間は本当に愛しき子だよね!」


ケラケラと声を上げて笑うシェラを睨み、グラハムは心の中で毒を吐く。



それなら、何でこんな世界にしやがった。



「シェラ、最後に聞きてぇ事がある」

「何だい?」

「あの時、テメエを殺したのは…ジルか?」


駆けつけた十年前の運命の日、グラハムはその時の姿を今でも鮮明に思い出す。


一人の少女の骸が灰となって、消え行く中で血で手を、顔を、服を染めたたった一人の少年。慟哭し、世界を呪わんばかりに血を吐きながら叫ぶのは。


「…あぁ、そうだよ」


目の前で楽しそうに微笑む少女の名前だった。



「酒を片手に昔を懐かしむのも、確かに興味はあるけれど」


シェラが片手を振ってグラハムの意識を戻すと、その場に腰を降ろして足を伸ばす。そして、目の前のグラハムに真剣な表情を向けて口を開いた。


「グラさん、私との会話を忘れてはいけないよ。君だけが今、知る事が出来る。私はまだ動けないから、君が動かなきゃいけない…人間を救いたいのなら」

「どういう事だ?」

「答えは伝えてるよ、後は君が自分の力で辿り着くんだ…そうだね」


シェラの深紅の瞳が徐々に無くなり、本来の少女の瞳の色を取り戻す中で。シェラは怪訝な表情の男に見向きもせずに、上半身を横たわらせて瞳を閉じる。


「時は歪んでいようが生きる者によって、必ず刻まれる。それを辿れば、良い…私も、刻んでおいたからさ」


それだけを言って、口元に歪んだ笑みを浮かべる『それ』は、グラハムにこう告げている。



辿り着けるなら、やってみろ。



もう既に少女から、あの不快な『それ』は感じない。グラハムは少しの時間、考えて少女を両腕で抱き上げた。


「簡単に言うんじゃねぇよ。こちとら頭を働かすのは苦手なんだからよ」


腕の中で眠る少女の寝顔は安らかである事に安堵して、ふと。


「力を貸せとか言えば良かったか…?」


ある考えが今更頭に浮かんで、更にそれに対してやらひ笑いながらも頷く姿が安々と頭の中で、思い浮かぶ。



畜生、だから笑ってやがったか。



怒りに叫びたくなるのを、少女が眠っている為に唸る事で抑えるグラハムに。団員が彼を探し出して、怯えるのは時間の問題だった。


ゆっくりと、それは這う。

なんだ、これは。

見た瞬間に、吐き気が込み上げて嫌悪で背筋が凍る。

こんな、モノが。

こんな、物を。

こんな、者へ。

長年、自身に根付いた誇りが急速に消えていく。

音を立てて、波に砂の城が崩されるが如く。


その果て、残ったの。


~???の追憶~

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