第五十五話 手紙
背後で、大採掘場の天井が崩れた。
轟音とともに大量の岩が落ち、光留たちがいた場所を呑み込んでいく。
「止まるな!」
先頭を走る蓮が叫んだ。
岳は風雅を背負っている。
風雅の両腕は力なく垂れ、胸元に残った傷から血が滲んでいた。
澪は伊織の右腕を自分の肩へ回し、身体を支えている。
「自分で走れる」
「走れてないから支えてるの!」
「足は残ってる」
「残っていれば何でもいいわけじゃないよ!」
伊織の足がもつれる。
澪が水の帯を腰へ巻き、どうにか転倒を防いだ。
伊織の左腕は、肘の下から失われている。
澪が塞いだ傷口には新しい布が巻かれていたが、白い布には既に赤が滲み始めていた。
「傷が開いてる」
「外に出てから塞げ」
「今も塞いでる!」
澪の左眼には、淡い緑の光が宿っている。
伊織を支えながら、治癒を続けていた。
光留は最後尾を走った。
右眼には、ほとんど眼力が残っていない。
父の刀を抜こうとしても、腕に力が入らなかった。
その背後へ、崩落が迫ってくる。
支柱が折れ、坑道の天井が次々と落ちていた。
「右だ!」
分かれ道へ出た蓮が、迷わず曲がった。
伊織の右眼に小さな火が灯る。
弱い光が、狭い坑道を照らした。
「そっちは来た道じゃないぞ」
光留が言った。
「来た道は崩れた」
「どこへ続いてる?」
「排水用の坑道だ。源蔵の地図にあった」
「出口は?」
「分からない」
「お前でも分からないことあるんだな」
伊織が息を切らしながら言った。
「文句があるなら残れ」
「誰が残るか」
六人は排水坑道へ入った。
天井はさらに低い。
岳は背負った風雅の頭をぶつけないよう、身体を屈めて進んでいる。
「重い上に邪魔だな」
「……聞こえてるぞ」
風雅が掠れた声を出した。
「起きてたのか」
「今……起きた」
「なら自分で歩け」
「無茶を言うなよ」
「口が動くなら平気だ」
「それ、お前たちの決まり文句か……?」
風雅はそう言うと、再び眼を閉じた。
坑道の奥から、冷たい空気が流れてくる。
地上につながっている。
だが、足元を流れる地下水は進むほど深くなっていた。
足首。
脛。
やがて膝近くまで水位が上がる。
「急げ!」
後方で岩壁が崩れた。
押し出された地下水が、一気に坑道へ流れ込んでくる。
濁流が光留の背中へぶつかった。
身体が前へ倒れそうになる。
岳が片腕を伸ばし、光留の襟をつかんだ。
「流されるな」
「助かった」
「風雅ごと流されたら、もう拾えないからな」
「俺じゃなくて、そっちの心配かよ」
水が腰まで迫る。
伊織の火が揺れた。
消えかけた炎を右眼の前へ集め、無理やり残そうとする。
「伊織、もう使わないで」
澪が言った。
「消えたら、何も見えない」
「私が道を探す」
「お前は俺を治してるだろ」
「でも――」
「全部一人でやろうとするな」
伊織の火が、行く先を照らした。
その光の先で、蓮が立ち止まる。
坑道を、崩れた岩が塞いでいた。
隙間はない。
地下水だけが、岩の間から僅かに流れている。
「行き止まりか?」
岳が尋ねる。
蓮は岩へ耳を当てた。
「向こうから風が来ている。出口は近い」
「近くても、これじゃ通れないぞ」
岳が風雅を地面へ下ろし、大剣を構えた。
右肩の傷から血が流れる。
外纏を出そうとしたが、薄い光が腕を覆っただけで消えた。
「俺が壊す」
「その肩じゃ無理だ」
光留は父の刀を抜いた。
刃へ黒を流そうとする。
右眼の奥に痛みが走った。
黒は刀身へ届く前に消えた。
「光留も無理だ」
蓮が言った。
「でも、このままじゃ水に沈む」
地下水は、もう腰を越えている。
伊織は片腕で岩壁へつかまっていた。
澪が水を押し返そうとしても、崩落の奥から絶えず流れ込んでくる。
「一度だけなら、火を出せる」
伊織が言った。
「岩の隙間で爆発させれば――」
「この坑道ごと崩れる」
「ほかに方法あるのか?」
誰も答えられなかった。
そのとき。
岩の向こうから、硬い音が響いた。
一度。
間を置いて、二度。
槌で岩を叩く音だった。
「静かにしろ」
蓮が岩へ耳を当てる。
再び音が鳴った。
今度は声も聞こえた。
「――そこにいるのか!」
源蔵の声だった。
「源蔵!」
光留が岩を叩く。
「こっちだ!」
「生きてるなら返事をしろ!」
「今しただろ!」
「六人いる! 怪我人が二人だ!」
岳が叫んだ。
岩の向こうで、幾つもの槌の音が重なった。
源蔵一人ではない。
町の鉱夫たちが、反対側から岩を砕いている。
「聞こえたか!」
源蔵の声が響く。
「今から穴を開ける! 崩れそうになったら叫べ!」
「もう崩れそうだ!」
伊織が答えた。
「それなら黙って耐えろ!」
「無茶苦茶だな、あの爺さん!」
岩の一部に亀裂が走った。
隙間から、朝の光が差し込む。
光留たちの顔を、細い光が照らした。
「もう少しだ!」
光留は父の刀を亀裂へ差し込んだ。
眼力は残っていない。
それでも、刀を梃子にして岩を動かす。
蓮も短剣を差し込み、隙間を広げた。
岳は片腕で大剣を押し込む。
伊織が残った右手を岩へ当てた。
「伊織、無理するな」
「片手くらい貸せる」
四人が押す。
向こう側から、源蔵たちの槌が振り下ろされる。
岩が大きく割れた。
白い光が、暗い坑道へ流れ込む。
「開いたぞ!」
人が一人通れるだけの穴ができた。
蓮が最初に抜け、向こう側から風雅を受け取る。
続いて澪と伊織。
岳が穴を通った直後、坑道の天井が大きく揺れた。
「光留、早く!」
澪が手を伸ばす。
光留は穴へ身体を滑り込ませた。
背後から濁流が押し寄せる。
源蔵が光留の腕をつかみ、力任せに引き上げた。
直後。
岩壁が崩れ、開いた穴を地下水と岩が塞いだ。
あと一歩遅ければ、光留は向こう側へ取り残されていた。
「全員いるか!」
源蔵が周囲を見る。
「光留、蓮、岳、澪……」
視線が伊織で止まった。
濡れた衣服。
青ざめた顔。
そして、肘の下から失われた左腕。
「その腕は……」
「見れば分かるだろ」
伊織が答える。
普段どおりの声を出そうとしていた。
だが、その場へ一歩踏み出した途端、膝が崩れた。
源蔵が身体を受け止める。
「今度は本当に倒れたな」
岳が言った。
「まだ……意識はある」
光留も地面へ腰を落とした。
排水坑道の先には、鉱山の入口が見える。
薄暗い坑道の外に、青い空が広がっていた。
全員で戻ってきた。
そのことを確かめた途端、身体から力が抜けた。
◇
光留が眼を覚ましたのは、三日後の朝だった。
休憩小屋の窓から、白い光が差し込んでいる。
隣の寝台では、風雅が眠っていた。
胸から腹へ幾重にも布が巻かれている。
顔に広がっていた黒い亀裂は消えていた。
代わりに、頬へ薄い傷跡が残っている。
「起きた?」
澪が椅子へ座っていた。
左眼に治癒の光はない。
顔には疲れが残っているが、三日前より血色は戻っていた。
「風雅は?」
「傷は深いけど、もう危険な状態じゃないよ。寄生の眼の眼力も残ってない」
「岳は?」
「肩を縫った。今は町の人たちと鉱山を見に行ってる」
「蓮は?」
「一緒。上の坑道には、もう眼獣がいないんだって」
群主が倒れたことで、鉱山にいた眼獣たちは統率を失った。
残った眼獣の多くは山の奥へ逃げ、動かなくなったものは黒い塵となって崩れた。
町の者たちは、既に上層の坑道へ入り始めている。
「伊織は?」
澪の表情が曇った。
「鍛冶場」
「何してるんだ」
「朝起きたら、いなくなってた」
「止めなかったのか?」
「光留も今まで寝てたでしょ」
「それは……」
反論できなかった。
光留は寝台から降りた。
右眼の奥には、まだ鈍い痛みが残っている。
左手首の腕輪には細かな亀裂が走っていたが、壊れてはいなかった。
「行くの?」
「見てくる」
「私も行く」
二人は休憩小屋を出た。
町には、久しぶりに人の声が戻っていた。
壊れた柵を直す者。
坑道から運び出した道具を洗う者。
鍛冶場の前には、修理を待つ武器が並べられている。
眼獣の遠吠えは聞こえない。
町を覆っていた霧も薄くなっていた。
鍛冶場の中から、金属の落ちる音がした。
光留が扉を開ける。
伊織が床へ落ちた鞘を見下ろしていた。
右手には剣を持っている。
腰へ鞘を結ぼうとしていたらしい。
だが、片手では紐を押さえながら結ぶことができない。
伊織が右足で鞘を固定し、もう一度紐を引く。
鞘が滑り、再び床へ落ちた。
「何してるんだ」
光留が尋ねる。
「見れば分かるだろ」
「最近、その言い方が多いな」
光留が鞘を拾おうとする。
「触るな」
伊織の声が強くなった。
光留の手が止まる。
「自分でできる」
伊織は剣を床へ置き、もう一度鞘を持ち上げた。
紐を腰へ回す。
片方を押さえれば、もう片方が落ちる。
歯で紐をくわえようとしても、鞘の位置がずれた。
三度目も結べなかった。
「腕がなくなったくらいで……」
伊織が呟いた。
右手が震えている。
「こんなことも、できなくなるのかよ」
光留は何も言わなかった。
伊織が床へ落ちた紐を見つめる。
やがて、小さく息を吐いた。
「……光留」
「何だ」
「結んでくれ」
「ああ」
光留は伊織の腰へ鞘を結んだ。
紐を強く締めすぎないよう、位置を確かめる。
「これでいいか?」
「少し高い」
「細かいな」
「抜きにくいんだよ」
「だったら最初から頼め」
「うるさい」
背後で、源蔵が鼻を鳴らした。
「三日寝ただけで剣を持とうとする奴に、まともな頼み方を期待するな」
炉の前にいた源蔵が、細長い木箱を持ち上げる。
卓の上へ置き、蓋を開いた。
白いものが入っていた。
最初は、長い手袋に見えた。
肘の下から指先までを覆う、真っ白な手袋。
だが、布だけではない。
白い革の下には細い眼鉄が通され、五本の指には小さな関節が作られている。
掌から手首へ伸びる幾つもの線が、薄い眼鉄の板へつながっていた。
「何だ、それ」
伊織が尋ねる。
「義手だ」
源蔵が答えた。
「お前の左腕に合わせて作った」
「三日で?」
「元になるものは前からあった」
源蔵は白い義手を持ち上げた。
「鉱山じゃ、落石や道具に巻き込まれて腕を失う者もいる。握るだけの義手なら作ってきた。だが、これは少し違う」
白い革をめくる。
内側には、髪ほど細い眼鉄の糸が束ねられていた。
「眼力を通せば、この糸が筋の代わりになる。指の一本一本まで動くはずだ」
「はず?」
「お前みたいな火の眼に使わせるのは初めてだ」
「急に不安になってきたな」
「嫌なら片腕で紐と格闘してろ」
伊織は床へ落ちた鞘を見た。
「つける」
源蔵が伊織の左腕へ巻かれた布を外した。
傷口は塞がっている。
それでも、肘の下には失われた腕の代わりに何もない。
伊織はそこから眼を逸らさなかった。
源蔵が義手の付け根を残った腕へ合わせる。
内側の留め具が締まり、白い革が傷口の周囲を包んだ。
肘の下から先に、新しい腕が伸びる。
表面には金属がほとんど見えない。
本当に、白い手袋を肘までつけているようだった。
「痛むか?」
澪が尋ねる。
「締めつけられる感じはする」
伊織が白い指を見る。
「でも、指先は何も感じない」
「義手だからな」
源蔵が言った。
「痛みも、熱も、冷たさも分からない。見ずに動かせば、何を握っているのかも分からん」
「それでも、動くんだろ」
「眼力を通せればな」
伊織の右眼に、赤い光が宿った。
火の眼力が肩から左腕へ流れていく。
白い義手の内側で、眼鉄の糸が赤く光った。
指先まで届く直前。
伊織が眼力を止めた。
白い指は動かない。
「どうした?」
光留が尋ねる。
伊織は答えなかった。
視線だけが、白い左手へ向いている。
あの坑道で。
寄生の眼に奪われた左腕は、伊織の意思に反して澪へ掌を向けた。
止めようとしても止まらなかった。
指先へ勝手に炎が集まり、仲間を焼こうとした。
その記憶が残っている。
「また、勝手に動いたらどうする」
伊織が呟いた。
「動かないよ」
澪が言った。
伊織が顔を上げる。
澪は白い義手へ触れず、その隣に立った。
「寄生の眼はもういない」
「でも――」
「今度は伊織の手だよ」
伊織の右眼が、再び赤く光った。
眼力が左腕へ流れる。
白い革の下にある眼鉄が、淡い赤を帯びた。
人差し指が震える。
僅かに曲がった。
続いて、中指。
薬指。
小指。
最後に親指が動く。
ぎこちない動きだった。
それでも五本の指が、伊織自身の意思でゆっくりと閉じていく。
白い手が拳を作った。
「動いた……」
伊織が拳を開く。
今度は、最初より滑らかに指が動いた。
卓の上に置かれた小さな金具へ手を伸ばす。
つかもうとしたが、指が強く閉じすぎた。
金具が弾かれ、床へ転がる。
「加減が難しいな」
「感覚がないから、眼で見て覚えるしかない」
源蔵が答える。
「眼力を入れすぎれば関節が壊れる。火を流しすぎれば、中の糸が焼き切れる。元の腕が戻ったと思うな」
「分かってる」
伊織は右手で剣を持ち上げた。
白い左手を、鞘へ添える。
指が鞘をつかんだ。
力は弱い。
僅かに震えている。
それでも、鞘は落ちなかった。
伊織が右手で剣を抜く。
刃が、鞘から真っすぐに滑り出た。
小さな炎が、白い指先へ灯る。
伊織は自分の意思で火を消した。
「白は似合わないな」
伊織が言った。
「そこが最初に気になるのか?」
光留が尋ねる。
「汚れが目立つだろ」
「お前なら、すぐ煤だらけにする」
「なら問題ないな」
源蔵が伊織の頭を軽く叩いた。
「問題だらけだ。しばらくは剣を振るな」
「どれくらいだ」
「最低でも十日」
「長い」
「なら二十日にするか?」
「十日でいい」
澪が呆れたように息を吐いた。
そのとき、鍛冶場の外から足音が近づいてきた。
岳と蓮が戻ってくる。
岳の右肩には厚い布が巻かれていた。
「起きたのか」
岳が光留を見る。
「そっちは?」
「上の坑道は取り戻した。眼獣は残っていない」
蓮が答える。
「大採掘場へ続く道は完全に崩れている。群主の眼力も感じない」
「これで終わったんだな」
光留が言った。
「ああ」
岳が鍛冶場の外を見る。
町の者たちが、坑道から石炭の入った籠を運び出している。
まだ僅かな量だった。
それでも、止まっていた鉱山が再び動き始めていた。
「町は助かった」
源蔵が炉へ眼を向ける。
「お前たちのおかげだ」
「珍しく素直だな」
伊織が言った。
「その義手を返せ」
「今のは聞かなかったことにする」
鍛冶場へ、町の見張りが駆け込んできた。
手には二通の封書を持っている。
「光留というのは、お前か?」
「ああ」
「港から届いた。お前たちがこの町にいると聞いて、船乗りが預けていったそうだ」
二通の封書には、それぞれ異なる印が押されていた。
一つは、盾と翼を重ねた騎士団の印。
もう一つは、刀の周囲に幾つもの眼を並べた刃眼隊の印。
「騎士団と、刃眼隊……」
光留は騎士団の封を切った。
中には、短い文が記されている。
『幻の島を覆う霧に変化が現れた。
海から島へ入れる時が近づいている。
騎士団は刃眼隊と合流し、幻の島奪還へ向かう。
水の島で待つ。故郷へ戻る意思があるなら来い』
光留は、その一文を何度も眼で追った。
幻の島。
生まれ育った故郷。
当たり前だった日常を、一夜で奪われた場所。
壊れた家。
血に染まった通り。
父の刀を受け取った鍛冶場。
そして、今もどこかで生きているかもしれない弟。
「もう一通は?」
伊織が尋ねる。
光留は刃眼隊の封書を開いた。
騎士団の手紙よりも、さらに短かった。
『光留、伊織へ。
故郷は、まだ失われていない。
残った者たちは、取り戻すための準備を続けている。
水の島で会おう。
今度こそ、俺たちの島を取り戻す』
手紙を持つ光留の指へ、力が入った。
戻りたいと思っていた。
だが、戻って何を見ることになるのかが怖かった。
生き残った者がいるのか。
弟は本当に生きているのか。
父の手掛かりは残っているのか。
何も残っていないかもしれない。
それでも。
戻らなければ、確かめることもできない。
「水の島か」
蓮が言った。
「次の目的地は決まったな」
「澪」
岳が妹を見る。
「お前は――」
「行くよ」
尋ね終わる前に、澪が答えた。
「今度も残っていいって聞くつもりだった?」
「一応な」
「答えも同じ」
岳は小さく息を吐いた。
「なら、俺も行く」
「お兄ちゃんは聞かれてないよ」
「お前が行くなら、俺も行く」
「またそれ?」
「放っておけるか」
蓮が二人から眼を逸らし、光留を見る。
「出発はいつにする」
「伊織と風雅が動けるようになってからだ」
「俺はもう動ける」
伊織が白い義手を上げた。
「その手で金具一つ拾えなかっただろ」
光留が言った。
「あれは加減を間違えただけだ」
「剣を振るなって言われたばかりだろ」
「水の島へ着くまでに十日くらいかかるんじゃないか?」
「船の上で練習する気か」
「使えるものは使わないとな」
伊織は白い左手を開いた。
指先を確かめるように、一つずつ閉じていく。
最後に拳を作った。
眼鉄の関節が、小さな音を立てる。
「腕を置いてきたまま、故郷に帰ることになるとは思わなかった」
「帰るんじゃない」
光留が言った。
伊織が顔を上げる。
光留は二通の手紙を重ね、父の刀へ手を置いた。
奪われた町。
失った家族。
置き去りにしてきた答え。
幻の島には、その全てが残されている。
「取り戻しに行くんだ」
伊織の白い拳に、赤い火が灯った。
小さな炎だった。
それでも今度は、伊織自身の意思で燃えている。
「ああ」
伊織が答えた。
光留は水の島がある方角へ眼を向けた。
「行こう」
その先に、故郷がある。
「今度は、俺たちの故郷を取り戻す」




