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真贋の眼 〜眼の奥に潜む真実〜  作者: えもえもん
第三章 砂漠の島と力の世界

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第四十三話 月相輪廻・雷神天臨



「開眼――」


 二つの声が、広間に重なった。


「月相輪廻」


「雷神天臨」


 月の眼の背後に、巨大な輪が現れた。


 銀色の縁だけを残し、内側は闇に沈んでいる。


 月の光など届かない地下に生まれた、もう一つの月。


 同時に、鳴神の身体から青白い雷が噴き上がった。


 雷は天井を這い、石柱を渡り、再び鳴神へ戻ってくる。


 眼から首筋へ、細い稲妻の模様が走った。


 胸の奥で心臓が打つたび、雷鳴が一つ響く。


 眼食者の額にある眼が、大きく開いた。


 増幅された圧が、二人へ押し寄せる。


「零相・朔」


 月の輪から、光が消えた。


 月の眼の忍は、そこに立っている。


 姿も見えている。


 それなのに、眼食者の五つの眼は、その存在を捉えられなかった。


 視線を向けても、意識がわずかに横へ滑る。


 眼力の気配も、足音も、呼吸さえも、闇の中へ溶けていく。


「消えたか」


 眼食者の五つの瞳が、別々の方向へ動いた。


 その瞬間、鳴神の姿が青い光へ変わった。


 雷鳴が聞こえたときには、眼食者の正面にいる。


 鳴神の刀が、額の眼へ振り下ろされた。


 首筋の眼が反応する。


 透明な瞳から、反発の力が放たれた。


 刀が届く直前、鳴神の身体が横へ弾かれる。


 だが、足は床から離れなかった。


 全身を走る雷が反発の力へ絡みつき、その勢いを奪っていく。


 鳴神は押し返された力を利用し、眼食者の側面へ回った。


「遅い」


 横薙ぎの刀が、首筋へ迫る。


 眼食者が右手を上げる。


 手の甲の眼が光った。


 刀と指先が触れる直前。


 眼食者の背後で、銀色の刃が生まれた。


 月の眼の忍が、音もなく立っている。


 短い刃が、首筋の眼を斜めに裂いた。


 透明な瞳から、血が散る。


 攻撃した瞬間、隠れていた気配が戻った。


 朔の月に、細い光が差し込む。


「一相・弦月」


 背後の月が、鋭い三日月へ変わった。


     ◇


 眼食者が振り返る。


 胸元にある眼が光り、裂かれた首筋の瞳を修復し始めた。


 月の眼の忍は右手を払った。


 三日月の形をした銀の刃が、四本放たれる。


 眼食者の首筋から反発が広がった。


 銀の刃が、まとめて弾き返される。


 だが、消えない。


 弾かれた刃は大きく弧を描き、石柱の間を回って戻ってきた。


 一度目より低く。


 一度目とは違う角度から。


 左前腕と、右手の甲へ迫る。


 眼食者の視線が、戻ってきた刃へ動いた。


 その隙を、鳴神は逃さなかった。


 一歩で間合いを消す。


 刀が額の眼へ届く。


 刃先が瞳を裂いた。


 増幅の光が揺らぐ。


 広間を満たしていた圧力が、一瞬だけ薄くなった。


「動ける……!」


 光留は床から片膝を上げた。


 伊織も刀を支えにし、身体を起こす。


 眼食者の胸元が強く光った。


 額の傷が塞がり始める。


「再生が早い」


 鳴神がもう一度刀を振るう。


 眼食者は初めて身体をひねった。


 刃が額の前を通り過ぎる。


 続いて戻ってきた弦月の刃をかわすため、右足を後ろへ引いた。


 足音が、広間に響いた。


 眼食者が、最初に立っていた場所から離れている。


 石柱の陰で見ていた風雅が、眼を見開いた。


「あの方を……動かした」


 月の眼の忍は、戻ってきた銀の刃を指先へ集めた。


「ようやく一歩か」


 鳴神が刀を肩へ担ぐ。


「次は膝をつかせるぞ」


 眼食者の五つの眼が、一斉に鳴神を睨んだ。


 左前腕から圧。


 首筋から反発。


 右手の甲から衝撃。


 三つの力が、額の眼によって一つへ重ねられる。


 床が沈んだ。


「全員、伏せろ!」


 御影が叫ぶ。


 鳴神だけではない。


 増幅された力は広間全体へ放たれようとしていた。


 月の眼の忍が、両手を月へ向けた。


「二相・上弦――盈」


 三日月が満ち、半月へ変わった。


     ◇


 三つの眼力が、爆発した。


 圧と反発と衝撃。


 相反する力が広間を内側から引き裂いていく。


 石柱が折れた。


 天井に亀裂が走る。


 騎士たちは盾を重ねたが、最前列から次々と砕けていく。


 光留は黒壁を作った。


 伊織と蓮、岳と澪が、その後ろへ身体を寄せる。


 衝撃が黒壁へ届く。


 その直前、広間の半分を銀色の光が覆った。


 眼食者から放たれた力が、二つに割れる。


 半分はそのまま広間を破壊し、残る半分が月の輪へ吸い込まれていく。


 上弦の月が、内側から明るさを増した。


「攻撃を吸ったのか」


 光留が黒壁を支えながら言った。


「すべてではない」


 月の眼の忍の両腕が震えていた。


「眼から放たれた力の半分だけだ。あの月へ一度、預けている」


 吸収しきれなかった衝撃が押し寄せる。


 鳴神が刀を横へ薙いだ。


 雷が壁となって広がり、残った力へぶつかった。


 白と青の光が、広間の中央でせめぎ合う。


 鳴神の足元が削れる。


 雷神天臨を使っていても、完全には止められない。


 眼から頬へ、一筋の血が落ちた。


 それでも鳴神は笑った。


「半分で、これか」


「もう一度来れば、保たない」


「なら、来る前に終わらせろ」


「そのつもりだ」


 月の眼の忍が、月へ向けていた手を握った。


 半月の内側で、蓄えられた三つの力が渦を巻く。


 眼食者は右手を前へ出した。


 再び、手の甲の眼へ衝撃が集まり始める。


「同じ力を返すつもりか」


「違う」


 月の眼の忍が、腕を下ろした。


「満ちた月は、すべてを地へ引き下ろす」


 背後の月から、欠けていた半分へ光が満ちる。


「三相・望月――月天圧」


 満月が、広間を白く照らした。


 月へ預けられていた圧、反発、衝撃。


 三つの力が一つとなり、眼食者の頭上へ落ちた。


 逃げ道はなかった。


 前からも。


 後ろからも。


 左右からも。


 全方向から引かれた眼食者の身体が、その場へ縫い止められる。


 両足の下で、石床が円形に陥没した。


 眼食者の左前腕にある眼が、圧を押し返そうと光る。


 だが、自ら放った力まで重ねて返されている。


 膝が、わずかに曲がった。


「今だ、鳴神!」


「待ってた!」


 鳴神が刀を両手で握る。


 広間を走っていた雷が、すべて刃へ集まり始めた。


 天井。


 石柱。


 床。


 騎士たちの割れた盾に残る小さな火花まで、一本の刀へ吸い寄せられていく。


 光が強すぎて、鳴神の姿が見えなくなる。


 ただ、人の形をした雷だけが立っていた。


 眼食者の胸元が光る。


 再生の眼が、傷ついた額と首筋を塞ごうとする。


 鳴神は床を蹴った。


 姿が消える。


 眼食者の五つの眼が動くより早く、その頭上へ現れた。


 雷をまとった刀が、振り下ろされる。


「神雷――天墜!」


 巨大な雷が、ピラミッドの地下を貫いた。


 満月の白と、神雷の青が重なる。


 眼食者の姿が、光の中へ消えた。


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