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真贋の眼 〜眼の奥に潜む真実〜  作者: えもえもん
第三章 砂漠の島と力の世界

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第四十二話 開眼



 五つの眼から放たれる圧力が、広間を満たしていた。


 光留は床へ突き立てた父の刀を握り、どうにか身体を支えていた。


 腕が震える。


 息を吸うだけで、胸の奥が押し潰されそうになる。


 伊織も、蓮も、岳も動けない。


 澪の指先に集まった水は、形になる前に床へ落ちていた。


 騎士たちが重ねた盾にも、ひびが広がっていく。


 鳴神は片膝をついたまま、刀を床へ突き立てていた。


 黒い短髪から、汗が落ちる。


 刀身を走る雷は消えていない。


 だが、立ち上がるには足りなかった。


「まずは、雷から喰らうか」


 眼食者の額にある眼が、鳴神へ向いた。


 圧力が増す。


 鳴神の膝の下で、石床がさらに沈んだ。


 そのとき。


 広間の入口から、足音が響いた。


 一歩。


 続けて、もう一歩。


 全員が床へ押しつけられている中を、誰かが歩いてくる。


 細身の、若い忍だった。


 短く切られた髪。


 無駄のない黒い装束。


 その姿だけを見れば、端正な顔立ちの若い男にしか見えない。


 所属を示す紋は、どこにもなかった。


 眼に、淡い銀色の光が宿っている。


 眼食者の圧力が身体へ触れるたび、薄い銀の外纏が揺れた。


 力を正面から押し返しているのではない。


 身体の表面を滑らせ、左右へ逃がしている。


 若い忍は歩みを止めず、鳴神の隣まで来た。


「相変わらず、派手にやられているな」


 低く、静かな声だった。


 鳴神が顔を上げる。


「来るなら、もう少し早く来い」


「お前が膝をつくところなど、滅多に見られないからな」


「見物に来たのか」


「半分は」


 鳴神の口元が、わずかに歪んだ。


 後ろで、一人の騎士が息を呑む。


「月の眼……」


 伊織が、床へ手をついたまま視線を向けた。


「騎士団の仲間なのか」


「違う」


 年嵩の騎士が答えた。


「どこにも属さない忍だ。だが、騎士団が窮地に陥ったとき、何度か力を貸してくれた」


 若い忍が、わずかに振り返る。


「昔の話だ」


「助けられた側は忘れません」


 眼食者の五つの瞳が、一斉に細くなった。


「三光忍の一人。月の眼か」


 声に、初めて明らかな欲が混じる。


「珍しい眼が、自ら喰われに来るとはな」


「喰えると思うなら、試してみろ」


 月の眼の忍は、眼食者へ向き直った。


 銀色の瞳の中に、細い弧が浮かぶ。


 その視線が、眼食者の全身をゆっくりとなぞった。


 左の前腕。


 右手の甲。


 首筋。


 額。


 裂けた長衣の下にある胸元。


 五つの眼を結ぶ眼力の流れが、月の満ち欠けのように濃さを変えていた。


「左前腕は圧。首筋は反発。右手の甲は衝撃。額は増幅。そして胸元は再生――五つ、といったところか」


 光留は眼を見開いた。


 重圧。


 攻撃を押し返した力。


 刀へ触れただけで身体を吹き飛ばした衝撃。


 黒で崩した眼を戻した力。


 すべて、先ほど受けたものと重なる。


「見ただけで、そこまで分かるのか」


 蓮が言った。


「眼力にも満ちる時と、欠ける時がある」


 月の眼の忍は、眼食者から視線を外さなかった。


「額の増幅が、ほかの四つを強めている。胸元の再生は、傷ついた眼を修復する。眼装が五つの力を巡らせ、欠けた場所を互いに補わせている」


 眼食者の笑みが消えた。


「長引けば、眼装と身体はさらに馴染む。そうなれば、今より厄介だ」


「正解だ」


 眼食者が右手を上げた。


 手の甲の眼が開く。


 巨大な衝撃が、広間を一直線に走った。


 月の眼の忍が片手を上げる。


 指先から、銀色の弧が生まれた。


 衝撃が弧へ触れる。


 轟音。


 受け止めた力は忍の身体へ届かず、弧に沿って上へ逸れた。


 天井の石が砕け、破片が降り注ぐ。


 その隙に、鳴神が片脚を立てた。


 全身を走る雷が、少しずつ強くなる。


「鳴神」


 月の眼の忍が呼んだ。


「開眼は使えるか」


 鳴神は刀を引き抜き、立ち上がった。


 押し寄せる重圧に、青白い雷が噛みつく。


「誰に聞いてる」


 顔を上げ、眼食者を真っすぐに睨む。


「まだ、一番でかい雷を落としてない」


「なら、短時間で仕留めるぞ」


「最初から、そのつもりだ」


 月の眼の忍の周囲へ、淡い銀色の眼力が集まり始める。


 鳴神の周囲では、青白い雷が何本も床を走る。


 石柱が震えた。


 眼食者の五つの眼が、二人へ向く。


「二つとも、私のものにする」


 月の眼の忍と鳴神が、同時に眼を開いた。


「開眼――」


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