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真贋の眼 〜眼の奥に潜む真実〜  作者: えもえもん
第三章 砂漠の島と力の世界

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第三十四話 迎えに行くために



 御影たちが宿を出ると、部屋には光留と伊織、蓮の三人が残った。


 伊織が窓を閉め、机へ対戦表を広げる。

 光留は寝床から手を伸ばし、自分たちの名前の先をたどった。


 次の相手は、戦士の眼を持つ男の組だった。


「次は、あの人か」


 伊織が隣へ腰を下ろした。


 光留はうなずく。


 妹を地下に囚われた男。

 その男と、闘技場で向き合うことになる。


 光留は紙から顔を上げた。


「伊織。どう勝つか、考えたい」


「ああ」


 伊織が対戦表を二人の間へ寄せた。


「まず、あの武器をどうするかだな」


 剣、槍、斧。

 戦士の眼は、間合いに応じて武器を生み出せる。守りに回れば、盾や籠手も作れる。


 どこから攻めるかを決めるには、その切り替えを考えなければならなかった。


「あの人が作った盾なら、黒で崩せるかもしれない」


 光留は言った。


「全部消そうとはしない。刀を通す場所だけ、狙って削る」


「その間に、俺が別の方から攻めるか」


「ああ。盾を俺に向けたら、お前が。お前の火を防いだら、俺が入る」


 伊織は顎へ手を当てた。


「相方が近くにいたら、簡単には回れないな」


「二人とも無理に踏み込むのはやめよう。片方が入れないなら、もう片方も攻め急がない」


 蓮が対戦表をのぞき込む。


「盾は、黒を当てた瞬間に消えるとは限らないぞ。向こうも眼力を送り込んでくる」


「分かってる。受け止め続けずに、短く触れて離れる」


 光留は答えた。


 今使える黒刀と忍術で、どこまで攻められるか。

 伊織の火を、どこへ通すか。


 二人は攻撃を重ねる向きと、引くときの合図を決めた。黒と火がぶつからないようにすることも、忘れなかった。


「相手が盾を出さずに、槍で突いてきたら?」


 伊織が尋ねる。


「穂先を外して、柄に黒を当てたい。そのとき、前へ出るのをお前の火で止められるか」


「やってみる。お前も、突っ込む前に声をかけろよ」


「ああ」


 蓮が二人の言葉を、対戦表の余白へ短く書きつけた。


 伊織も、思いついたことを続けて伝える。


     ◇


 同じ夜。


 闘技場の控室で、戦士の眼の男が一枚の紙を見ていた。


 そこには、光留と伊織の名前があった。


 男は対戦表を机へ置いた。


 妹は、まだ地下にいる。


 連れていかれるとき、迎えに来ると言った。

 待っていろと、自分が言った。


 男は両手を組み、額を近づけた。


 目を閉じると、妹の顔が浮かんだ。

 今も、自分が来るのを待っている。


 ゆっくりと顔を上げる。


「俺は、絶対に負けられないんだ」


 誰もいない部屋に、声が落ちた。


 男は立ち上がり、扉へ向かった。


     ◇


 宿の部屋では、蓮が水を注いでいた。


 伊織が器を受け取り、光留にも渡す。

 光留は口を湿らせてから、机へ戻した。


「あの人の妹も、助けたいな」


 光留が言った。


「ああ。救出に関わる知らせが来たら、すぐ伝える」


 蓮が答える。


「こっちで分かったことも、御影たちへ渡す」


「頼む」


 光留は対戦表を見た。


 勝ち上がって、一眼級の眼装を手に入れる。

 弟を救うために力を貸してくれる者を探す。

 そして、自分自身も強くなる。


 この島で、やりたいことはまだ残っていた。


 枕元には、父の刀がある。


 光留は鞘へ手を添えた。

 柄尻の黒い砂硝子が、部屋の灯りを映していた。


「蓮次郎を、迎えに行く」


 伊織が顔を上げた。


「そのために、俺はもっと強くなる。使える技も増やすし、お前と合わせる練習もする」


 光留は伊織を見た。


「もう一度、頑張る。弟を助けに戻るために」


 伊織は器を置いた。


「俺も一緒に行くぞ」


「ああ」


「その準備に、まず次の試合だな」


 光留はうなずいた。


「勝とう」


 伊織の口元が緩んだ。


「おう」


 明日も、その次の日も、できることを積み重ねる。

 必要なことを覚え、身体へ染み込ませる。


 弟のところへ戻るために。


「動けるようになったら、俺も練習に付き合う」


 蓮が言った。


「今夜は、その腕を休ませろ」


 光留は包帯を巻かれた手を見た。

 傷はまだ疼いている。


「分かった。治ったら、頼む」


 父の刀を枕元へ戻した。


 伊織が対戦表を畳む前に、光留はもう一度、自分たちの名前を見た。


 その下には、次の試合で使う合図が書き込まれていた。


「伊織、明日は相方のことも調べよう」


「ああ。蓮と手分けして、見ていた人に聞いてくる」


「俺は、聞いたことをまとめる。戻ったら教えてくれ」


「任せろ」


 蓮が空いた器を重ね、伊織が紙を机の端へ置いた。


 光留は寝床へ横になった。


 目を閉じる前に、二人へ声をかける。


「おやすみ」


 返事が二つ、聞こえた。


 明日、何をするかは、もう決まっていた。


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