海沿いの道
「ふー!」
ヘルメット越しにそう叫ぶ声が聞こえてくる。左手にはもうすでに海が見えていた。体に当たる風は塩の匂いがした。この匂いを嗅いだのはいつ以来だろうか。
海沿いを岩先輩のバイクがぐいぐいと進む。吹く風や、周りの開け具合・景色、山とは違う心地良さがある。
そこからさらに数分進んだところでバイクは一般の駐車場に入り、岩先輩はそこにバイクを止めた。俺は先にバイクを降りる。二回目だけれど少し慣れてきた気がする。
「よし、じゃあ海辺に行くぞ!」
「はい」
「なんだリアクション薄いな。海だぞ海」
岩先輩は俺の手を掴んでくる。
「今のところバイクがピークですね」
「海沿い走るの気に入ったのか?」
「はい」
あれはとても良かった。着いたばかりだけれど、帰りが楽しみだ。
海辺に通ずるであろうキレイに舗装された道に入る。左右には道の駅のような店や、出店が並んでる。
「ここに来たことは?」
「ないですけど」
「なら良かった。帰る頃には海沿いで走るのも気に入ったと言うことになるだろう」
「確か観光地ですよね」
「そうだ。美しい景色は良いが、人が多いのは嫌になる」
確かに平日だというのに人が多い。時々人に当たりそうになるのを避ける。片手がふさがって上手く歩けない。すれ違う人々はみなこぞってアイスクリームやらハンバーガーやらを食べている。有名なのだろうか。
「おい、足を止めるな。早くここ抜けるぞ」
岩先輩は本当に人混みが得意でないのかいつもよりも足が速い気がする。
正面から腕を組んで横に広がったカップルが二組迫ってくる。大学生ほどの見た目だ。俺も今後そんな人ができるだろうか。そんなことを考えながら先輩に飼われているペットの気分でその道を抜けた。
「っんー! やっと解放された」
正面には先ほど見えた海と砂浜、そしてその奥にある島への一本道がある。先輩は俺の手を離さずに器用に伸びをしている。しっかり伸ばせているのだろうか。
「にしてもカップル多いですね」
「あの島の神社は恋愛成就だからな」
そうだったのか。どうりでカップルが多いわけだ。名前しか知らなかった。
「なんだ? セン。お前、カップルに勘違いされちゃうー! なんてコテコテの妄想してんのか?」
ニヤついてこっちを見上げる先輩の顔があまりにもうざくて、俺はため息をついた。
「岩先輩、カップルはさっきすれ違った人たちみたいに横に並ぶんです。こんなペットみたいに縦になってません」
「おい、誰がペットだ」
「確かにそっちの方が納得ですね」
今の状況的に俺がリードをつけられている気分だったが、並び的にもぐいぐい進んでいく先輩はペットにも捉えられる。そう思うとなんだか気分がよくなってきた。
「いっておくがお前に私は飼いならせん」
「飼おうとも思いませんよ」
「それはそれでむかつくな」
そんな理不尽な。岩先輩はそう言ったと思うと近くにあるベンチへ向かった。もちろん手が繋がれている俺もそれについて行くことになる。先輩はそこに鞄を置いてカメラを取り出した。




