突撃と次の目的地
「セン。いるか?」
それから一週間後、岩先輩が教室にやってきた。いや、何で知ってるんだ。
「どうしたんすか?」
俺はすぐにドアの方に近寄った。
同じ学科のクラスメイト達は突然入ってきた先輩を一瞥はするが、大学という授業の形式からかあんまり気にしていない様子だった。
「この後暇か?」
「次の授業で今日は終わりですね」
「じゃあ図書館で待ってるから終わったら来てくれ」
この先輩が俺の予定を気にしているのか? 一週間見ない間に何があったんだ。
「何か失礼なこと考えていないか?」
眉をひそめて俺を見上げる。正確にいうなら睨みつけてくる。
「とんでもないです。分かりました。終わったらすぐ行きますね」
「おう」
それだけ言って、岩先輩は教室を後にした。俺も前回よりなんか丸い先輩に違和感を覚えつつも次の講義のため、教科書とノートパソコンを鞄から取り出した。
「おい直人」
「ん? どうした」
「お前、あの先輩と仲がいいのか?」
入学式で少し話すようになった同級生の新井が話しかけてくる。下の名前はよく覚えてない。確か圭太だったか。そんな気がする。
なんだ? 岩先輩有名人なのか? それとも面がいいから紹介して欲しいとかか?
「ぼちぼちだよ」
「すげーな」
「な、なにが?」
そんなちんぷんかんぷんな言葉に訳が分からず俺はついどもってしまった。
「あの先輩、人を寄せ付けないで有名だからさ」
「へ?」
なんかあり得ない単語が聞こえてきた。あの人は別に男も女も関係なく仲良くできる、というか仲良くさせるだろう。本当に同一人物の話をしているのか?
「あの人とてもキレイだろ? だからみんな話しかけに行くんだけど全員もれなく撃沈したらしい」
「それ本当か?」
あの人に付き合いきれなくなったなら分かるが。
「本当だ」
なら双子でもいるのだろう。とりあえずそう思って、俺はパソコンを立ち上げた。
「岩先輩」
「なんだ?」
図書館で集合し、どうせまたどこかに連れまわされるのであろうバイクがある駐輪場に向かっている途中、俺はとりあえずさっきの疑問を解消することにした。というかこの人はなんで大学のキャンパスでも手を掴んでくるんだ。別に逃げないのに。
「先輩って双子なんですか? それともそっくりさんがいるとか」
「なんだその質問は」
岩先輩は怪訝そうな表情でこちらを一瞥する。
「趣旨を言え。私に双子なんていない」
俺に一歩近づいていつぞやの時と同じように下から睨め付けてくる。そして俺はその圧力に負けてすべてげろった。
岩先輩はその俺の話を最後まで聞いて、話が終わると同時に何かを我慢しているように俯いてプルプルしていた。そして、それが限界に来たように笑い始めた。
「あははっ。セン、面白いこと聞いたな」
「笑わないでくださいよ。あなたの事なんですから」
「ああ。すまんすまん。んで、お前は信じられずに私に双子かなんかがいると思ったのか」
「……そうですね」
「おい、拗ねないでくれよ。ちなみにその話事実だと思うぞ」
「え?」
なんか信じられない言葉が聞こえてきた。
「なんだその間抜けな顔は」
「でも岩先輩、会って数分どころか数秒で俺巻き込んでバイク乗せたじゃないですか」
「そうだな」
「どういうことですか」
「ははっ!」
訳が分からないが、岩先輩が笑っていてなんだか癪だ。
「なんだその解せないという顔は」
「事実です」
「仕方ない教えてやろう」
岩先輩は両手を腰に当てて胸を張った。
「直感だ」
「え?」
「直感だ」
思ったよりまともな理由なんてなかった。
「あなたは動物ですか」
「哺乳類であるのは間違いないな!」
なんか色々考えていたのが馬鹿らしくなった。
「じゃあセンの疑問が解決したことだし、行くか」
「どこにですか?」
「そりゃあ決まってるだろ」
いや、何も決まってないだろ。岩先輩は俺のいぶかしむ目も楽しそうに見る。
「前回山に行ったんだ。今日は海だ!」




