一望できる景色
「どうだ? いい景色だろ?」
「大学の近くにこんなところあったんですね」
「ま、近くっていっても三十分ぐらい離れてるけどな」
「ですね」
連れられて奥に進むと、山の麓の方まで一望できるところにたどり着いた。岩先輩は丸太を模したフェンスに体重をのせてその景色を見ている。俺もそれに倣ってこの景色を眺める。
「なんか時間の進みが曖昧ですね」
なんとなく思ってることを言う。
「ここにはスマホ以外の時計はない。だから存分に堪能しろ」
「はい」
この景色を写真に収めたい気持ちを抑えて揺れる葉や、所々にあるピンク色の所——おそらく桜だろう。を見る。時々吹く風が気持ちいい。横をちらと見ると岩先輩の髪がなびいていてとても絵になっていた。
「ん、どうした? 惚れたか?」
しばらく見惚れているとにやつきながら訊いてくる。俺はなんだか認めるのは癪で誤魔化すように岩先輩にカメラを起動したスマホを向けた。カメラを向けられたことに感づいた先輩は恥ずかしがる様子など見せず、フェンスに体重をのせたままこちらにピースサインを送った。
むしろ俺が恥ずかしくなって、スマホの画面を閉じた。
「なんだ撮らないのか」
「少しは照れてくださいよ」
「私の柄じゃねえな」
そうですか。そうですか。別に期待なんてしたなかったけれど負けた気分だ。絶対いつかぎゃふんと言わせてやる。岩先輩はいつの間にか切り替えてカメラを眼前に広がる景色に向けている。
「うん。やっぱりいいな」
自分で撮った写真を確認しつつそう言った。今回は満足のいった写真が撮れたらしい。
「ほらセン。見てみろ。どうだ?」
見せてくれた画面には眼前の景色がそのまま映し出したような写真が映し出されていた。
「凄いですね。見たまんまです」
「だろー?」
嬉しそうに笑う。この人にドキッとしてしまうのが悔しい。
「なんか撮るときの設定とかあるんですか?」
「ああ、あるさ。センがカメラを買った時に手取り足取り教えてやろう」
「今じゃダメなんですか?」
「今でもいいが、セン。お前カメラ欲しがってるだろ?」
ずばり心の中を言い当てられる。すぐに影響を受けてしまう自分が少し恥ずかしい。
「ういやつめ。だからおまえは良いんだ。屈め。撫でてやろう」
「いや、いいっす」
「遠慮するな」
「してないですよ」
岩先輩は手で宙を撫でるようなジェスチャーを行う。
「ま、だったらカメラを買ってからの方が良いだろ? 自分のカメラを買ったら愛着がわくぞー」
「すぐに買いたくなっちゃうんでやめてください」
「そしたら今度買いに行こうか。付き合うぜ」
「その時はお願いします」
「素直でよろしい」
これははやくバイトを探さないとな。カメラってどれぐらいするんだろうか。




