二人占めの景色
自然の中を岩先輩はぐいぐいと俺の手を引っ張りながら進む。
「あの岩先輩」
「なんだ?」
「別についていくので手を掴んで引っ張らなくてもいいですよ」
「センが迷子になるかもしれないだろ?」
ニヒルに笑って言う。この人は俺をからかってるんだ。
「いや、ならないですよ」
「なんだ? まだ酒も飲めないお子ちゃまが」
「岩先輩は飲めるんですか? 一つ違いですよね?」
「それが飲めるんだなあ」
岩先輩は足を止めてにやりと笑った。
「私、誕生日先月だから」
今日が五月十三日だから四月生まれか。
「なんだ。留年してるんだと思いましたよ」
「なんだと?」
岩先輩がメンチを切りながら俺に一歩近づいてくる。心なしか掴んでる力も強くなってきた気がする。いや、これは気のせいじゃない。痛い痛い。
「冗談ですよ。あの、ほんと、すみません。謝るんで、力緩めてもらってもいいですか?」
「しかたない。貸し一な」
「貸し?」
こんなので貸し一だって? むしろついてきている時点で借りだろ。というか年齢はいいとしてこの人の見た目的に身分証がなければ断られそうだ。
「なんだ?」
その俺の心の内を読んでか、下から岩先輩が再び睨みつけてくる。
「なんでもないです」
「それならいいんだ」
先輩はふっと表情が軽くなりそのまま再び歩きはじめた。ちなみにまだ俺の手は掴まれたままだ。そのまま山道のような道に入る。周りからはウグイスだろうか、鳥のさえずりが聞こえてくる。なんだかいつも人工物を見てきたからかとても新鮮で、あたりをキョロキョロと見てしまう。よく見ると木も草も葉の形が異なっている。中には虫がくっついているものも少なくなかった。
「いいだろ? 私のお気に入りスポットの一つだ」
「いいですね。なんだか目が休まります」
「分かってるじゃないか」
ふいに岩先輩は立ち止まり、皮のバッグから小さいカメラを取り出した。大学で使っていたやつと同じだ。これまたクラシックなカメラだ。すぐになにやらいじってる。
「写真撮るの好きなんですか?」
「そうだな」
「なんでですか?」
先輩はレンズを通して何かを見ている。
「そうだな。私は旅で見る色が好きなんだ。でもそんなもの持ち帰れない。だから私は写真を撮るんだ」
「なんか……、それ、めちゃめちゃいいですね。そういうの羨ましいです」
本心だった。今まで何かを一気通貫にやったことがない俺は岩先輩を羨ましく思ってしまった。
「ははっ。何言ってるんだ。これからはセンも共犯者だよ」
「え?」
先輩はレンズから視線を外して俺の方へ向き直ると快活に笑った。そしてシアトリカルに両手を広げる。
「私たちでこの景色を二人占めにしてやろうじゃないか」
その姿は——岩先輩的に言うと色か。筆舌に尽くしがたいほどキレイで、彼女込みのこの景色を残しておきたい。そんな思いが、これからくるであろうこの人との日常へのワクワクと一緒にせりあがってきた。




