連れていかれた先
まず連れていかれたのは駐輪場だった。大学の駐輪場には自転車とバイクがかなり多く溢れていた。中には生垣にもたれさせているものもあった。
岩先輩はその中のバイクが置いてある場所に行くと、黒色のクラシックバイクの横で止まった。名前は分からないがとてもカッコいいバイクだ。そのバイクの横にひっかけてあったヘルメットを取って俺に押し付けた。
「ほら、被りな」
俺はもう何を言っても駄目なのが分かったので大人しく差し出されたステッカーが色々貼ってあるヘルメットを被った。
「いい子だ。特別に後ろに乗せてやろう」
「別に頼んでないですけど」
「お、生意気だな」
そう言いながら荷物を乗っけたり、バイクを動かしたりなんかごちゃごちゃしている。何やってるかさっぱり分からないが、出発する準備をしているのだろう。
「安心しろ、今回はセンに合わせて近場にしてやろう」
岩先輩は自分の分のヘルメットを被ってから、タンデム用の足場をカチッと出した。
「よし、いくぞ。後ろ乗れ!」
バイクにまたがると、そう言って俺に手を差し伸べてきた。俺はその手を借りて、何とかバイクのタンデムシートに座った。手をその後どうしたらいいか分からず彷徨わせていると、岩先輩が俺の手を誘導して自分の腹部の方へ持っていった。俺はできるだけ触る箇所が少ないように優しくそこに手を置いた。
「しっかり捕まってろよ!」
「はい!」
エンジンがかかり、排気音が鳴ったと思うとすぐにバイクは前に進んだ。おお。初めて乗ったがなんだかワクワクしてきた。何かのアトラクションのようだ。
バイクはそのまま正門から出て、前へ前へぐんぐんと進む。もう知らない道に出た。進めば進むほど、視界からは人工物が減って、緑が増えていった。体に当たる風がきもちいい。
「どうだ、セン。気持ちいだろ?」
信号待ちで岩先輩がバイザーを開ける。
「はい。なんだかありきたりですけど風になった気分です」
「だろ? そのありきたりがいいんだ」
エンジンがまた吹きあがってからバイクが進む。さっきよりもスピートが出ていてとても気持ちがいい。もう店などは見当たらなってきて周りは木だけになった。どうやら山の中に入ったようだ。それに伴って風も少し肌寒くなった。
信号がほとんどないこともあり、バイクはズンズンと進む。途中反対車線からバイクが来た時に先輩は手を上げて挨拶のようなものをしていた。それも一台や二台ではなかった。知り合いなのだろうか。この先輩に知り合いが多いことに違和感はまったくない。
「ここだ!」
バイクは自然に囲まれた駐車場で停まり、先にバイクを降ろされてから先輩もヘルメットを取ってそう言った。
「ここはどこですか?」
「ここは菫山自然公園だ」
「自然公園ですか」
「正確にいうならここは展望台なんだ。菫山展望台。夜になると人が多くなる。ほらあっちに少し大きめの施設が見えるだろ?」
「確かに」
「ま、私たちはそっちに行かないだけどな」
先輩はそう言って俺の手を掴んだ。
「じゃあ、こっちだ。いくぞ!」




