現実逃避
先輩から渡されたカップでコーヒーを飲みながら空を見上げる。
ああ、いい天気だ。とってもいい天気だ。こんないい天気の日には何も考えずにゆっくりしたいものだ。嫌な事とか面倒な事とかすべて忘れて。この風とか、日差しとかを享受したい。
今日のはじめまではよかった。というか飯を食うまではよかった。あんな何もない普通の日だと思ってたのに、まさか売り言葉に買い言葉でこの人と付き合うことになってしまうなんて。
普通、もっとこう色々あるじゃなないか。手を繋いでドキドキ、とか、普段とは違う所にギャップ萌えするとか。ショッピングデートとかさ!
いや、分かってるさ。先輩は俺に恋愛感情がないのは重々承知している。きっと男除けかいつものからかいの延長線だろ? きっと飽きたら別れるとか別れないとかなしに離れていく。けど、これで噂を否定することができなくなってしまった。
「なんだセン。浮かない顔だな。何かあったのか?」
先輩がずっとニヤニヤしている。
「はあ」
「ため息とはなんだ。こんなかわいい美少女捕まえて」
「そうですねー」
俺は現実逃避でコーヒーを傾けてもう一度空を仰ぐ。
「なんだ? いちゃいちゃしたくて不服なのか?」
「そんなわけっ」
すぐに椅子の足を蹴られる。おい。コーヒーがこぼれたらどうするんだ。
「それで、この後どうするんですか?」
「そうだな、この後お前の思う通りホテルっつーのも一興だが、まあ予定なんて決めずにゆったりしてようぜ」
「思ってませんよ」
「ははっ!」
分かってるのかこの人は。先輩の方を不満を伝えるために軽く睨む。
「しょーがねーなー。特別だぞ」
その言葉に俺は身構える。何をするつもりだ。
「おい、かわいい彼女を警戒すんなって。これだよ」
そう言って先輩が席を立って鞄から取り出したのは、網? いや、ハンモックか。広げてどや顔しているがハンモックの方が大きくて真ん中の方が地面についている。
「片方俺が持ちますよ」
「お、気が利くな」
俺は先輩から片方を持ち、とりあえず近くの木のあるところへ向かう。
「これを木につければいいんですか?」
「そうだ」
お互いにいい距離感の木に括り付けると案外結構雰囲気があった。一歩下がって出来上がったハンモックを見る。なかなかいいバランスじゃないか。こう見ると本当にキャンプに来たのだろうと思う。
「なかなかいいだろ?」
いつの間にか隣に立っていた先輩が腕を組んで言った。
「ですね」
「よし! さっそく座ってみようか」
「はい。ん?」
「二人でですか?」
「そうだ」
「大きいですけど、二人で座るには小さくないですか」
「まあいけるだろ、ほら、こいよ!」
そう言って俺の手首を握ってハンモックの方に向かった。




