仕返しの代償
あらかた食べ終えて一息ついた頃、俺たちは二人して椅子でゆったりしていた。
「いやー、食ったな」
「食いましたねー」
特にすることもなく青空を見上げる。きっと先輩も同じようにしているだろう。
「そうだ、コーヒーでも飲むか?」
「あるんですか?」
「ああ、氷があったらよかったんだが、まあいい」
先輩はそう言って見たこともないガジェットを取り出した。そのガジェットは上下で分かれるようで、先輩はクルクルと慣れた手つきで分離した下の方に水を入れ、付属している小さいカップみたいなところへコーヒーの粉を入れて、戻してから火にかけ始めた。
「そういえばセン」
自分の椅子を持ち上げて先輩が近づいてくる。置かれたのは俺のすぐ横だ。さっきよりも距離があまりにも近い。
「なんですか」
「この前訊かれたんだが、わたしとお前が付き合ってるっていう噂があるらしいな」
あー、嫌な予感がする。だってこの人すげーニヤニヤしてるもん。
「そうらしいですね」
俺は極めて普通を努めて答える。
「どう思ってるんだ?」
「どうってなんですか?」
「そりゃああるだろ。嬉しいですとか、光栄ですとか、恥ずかしいですけどとても嬉しくて、できるなら岩先輩と付き合ってしまいたいですとか」
先輩は俺の手に自分の手を添わせるように触れてくる。この人はからかう気満々だ。
「いやーないですね」
「お? そんなこと言っていいのか? あーあ、ここで岩先輩お願いします! その噂を聞いてから意識しちゃって、付き合ってください。とかいったら付き合ってやるのもやぶさかでもないんだが」
このニヤニヤ顔ムカついてきたな。どうにかやり返せないだろうか。やってやろう。ここでからかわれるのが当然にしたら今後もからかわれ続ける。ここが大事だ。
「なんだ? 照れてるのか?」
「そうですね」
「ん?」
「先輩とてもかわいいので、噂聞いて意識しちゃいました」
俺は這わせてきた手を強引に掴んで自分の方に寄せる。思ったより近くなってしまって少し距離を取ろうかと思ったが、ここで引くわけにもいかず、そのまま先輩の顔を見つめる。先輩は突然の行動に驚いているのか目を開いている。
「なので付き合ってください」
「……」
先輩は握られる手も開かれた目もそのままに固まっている。
「なんですか、岩先輩、照れてるんですか」
嘘だ。照れてるのは俺だ。思ったよりも顔が近くて離れたくても離れられない。この人顔だけは良いんだよなぁ。
「……」
先輩は黙って俺の手を振りほどくとふいっと目を逸らした。やばい。やってしまったか? 先輩は視線を外したまま何も言わない。
「すみません。じょうだんで……」
そう俺が言い切る前、しかし俺が何を言ったのか確実に聞き取れたであろうタイミングで先輩はこちらを振り向いた。その顔はさっきのニヤニヤ顔より一層、笑っていた。やばい。
「そうか。センはそんなに私と付き合いたいのか」
「いや、じょうだ……」
「そうか、仕方ない。付き合ってやるよ。いやーモテる女ってのはつらいな」
「岩先輩、だから……」
「セン、お前から告白したんだ。まさか、女の子にとって大事な告白というイベントを冗談だとか、嘘だとか言わないよなー?」
矢継ぎ早に言われ、俺には何も言わせてくれなかった。
「お、コーヒーが出来たぞ、彼氏くん?」
ほんと、これどうしよう。




