未来の話
先輩とハンモックで並んで座る。すぐにたわんで先輩との距離が近づく。少し離れようとするが、重力に引っ張られて自然に近づいてしまう。
「んー!」
先輩は腕を伸ばしながらそう言う。そしてその勢いそのままハンモックに倒れた。背中に先輩の感触がする。きっと途中で横に倒れたのだろう。なぜわざわざこっちに。
「いやー、やっぱりハンモックはいいよなー」
「ですね」
「ほら、センも倒れてみろよ。気持ちいいぞ」
「いや、俺は良いですよ」
「そんなこと言うなって」
先輩は起き上がって俺の横に再び座ると俺の肩に腕を回すと抵抗をさせないほど早く、そして強く、重力に任せるように倒れた。横を見ると先輩の顔が今までにないほど近くてつい息を飲んだ。
「どうだ。こうやって揺れながらゆったりするのもまた乙なものだろ?」
そう言ってニヤッと笑う。
「そ、そうですね」
俺は先輩から顔を背けるように逆方向を向く。確かにハンモックで揺られながらゆったりするのはとても心地がいい。けれど少しこの状態は居心地が悪い。というか心臓に悪い。
「セン、次はどこ行きたい?」
「前にも同じこと聞いてましたけど」
「こんな話いくらしてもいいだろ?」
落ち着いた声色で先輩が言う。
「まあ、そうですね」
「それにもうこうなったんだ。近隣の県だなんて遠慮はもういらないだろ?」
……。なるほど、今わかった。先輩がなんであんなこと言ったのか。気にならないというなら嘘になる。それが分かった。
「ふっ……」
「セン?」
「はははっ!」
先輩はきっとなんの引け目も遠慮もなく旅を楽しみたいのだ。この連れまわされる関係だけなら俺が行きたいところを言えないと考えたんだろう。だから付き合うことでその引け目をなくそうとしている。
「岩先輩、かわいいですね」
「は? なんだいきなり」
「そのために付き合ったんですか?」
「……なんのことだ」
この人にこんなかわいいところがあったとは。声を殺すように笑っていると、背中からガスッと殴られた。
俺はそっぽ向いているのもあれで、仰向けになった。
「うっ!」
するとすぐに顔を掴まれた。
「すみません。すみませんってば」
「ふんっ」
「照れ隠しですか?」
「あぁ?」
「すみません」
この人なんだか怖い感じなのにこういうところは可愛い。けれどまたアイアンクローをかまされるのも嫌なのでこれぐらいにしておく。
「それで行きたいところでしたっけ。そうですね、キングスキャニオンとか、あとベネチアとか行ってみたいですね」
「お、いいな。ベネチアなんて地球温暖化でいつどうなるか分からないしな」
「日本だったら草津温泉とか厳島神社とか行ってみたいです」
「よし、行こうか」
「今からですか?」
「私としては今からでもいいが、明日も大学あるしな」
「岩先輩はどこか行きたいところありますか?」
「そうだな、ピラミッドとか見てみたいな。あとコロッセオとかピサの斜塔とか」
「外国が多いですね」
「確かに。まだ日本の都道府県全部回ったわけじゃないのにな」
先輩は笑う。
「じゃあ次はどうしましょうか」
「そうだな。まずこの二年で日本全部回ってからその後は海外を制覇するか」
「岩先輩今二年生ですよね?」
「そうだが問題あるか?」
自信満々に答える。それに俺も同調してしまう。
「ないですね」
「だろ?」
俺は今後の先輩との楽しそうな旅路にどうもワクワクしてしまって、ずっと一緒にいるという大前提を忘れて、他に行きたいところはないかと思いをはせた。




