訳の分からない噂
ある日。いつものように俺は大学で講義を受けていた。教科書の書いてあることをただ聞くだけの退屈な講義だ。
「……であるからしてー」
俺は開いているパソコンでカメラの値段を確認する。やっぱり高い。それに何がなんだか分からない。試しにバイクも見てみる。こっちの方が分かりやすい。ささるかささらないか。それだけだ。お、これもカッコいい。
「なんだ直人、おまえバイク買うのか?」
隣に座ってた新井が話しかけてくる。
「んや、眺めてるだけ」
「そうか」
新井は少し残念そうな顔をしてそう呟いた。バイクが好きなのだろうか。
「少し気になってるけど」
俺はそう言うと新井がスマホを俺に差し出してきた。
「そうか! これ俺が乗ってるバイクなんだが、今自動二輪部に入ろうと思ってるんだ。直人もどうだ?」
「いや、まだ免許も持ってないから入れないよ」
「確かに免許とバイクがないとあれだよな。まあ免許取ったら俺に言ってくれ。紹介するよ」
その後に「ま、一年生だけどな!」と付け加えた。
「その時は頼むよ」
俺はそれだけ言ってパソコンに目を戻した。部活か。懐かしい響きだ。そんなのに入ってたら先輩との突然の旅に参加できなくなるな。……はは。なんで先輩のこと考えてるんだ。全く毒され過ぎだ。
「そういえば直人」
「ん?」
また新井が話しかけてくる。教授は教室内での雑談なんて日常茶飯事過ぎて何も注意しない。
「あの先輩とはどうなんだ?」
「あの先輩って岩先輩のこと?」
「岩先輩? ああ、そうだ。岩合先輩のこと」
「それでどうって?」
「そりゃ決まってるだろ。どこまでいってるのかって話だ」
「このまえは道の駅まで行ったぞ」
なんでこいつは俺たちがどこかへ行ってることを知ってるんだ? もしかして先輩も自動二輪部なのか? 正直あんまり信じられないが。
「そうじゃない、そうじゃない。付き合ってるんだろ? すげーよ、あの人射止めるなんて。どこまでって言うのは恋愛的な意味だ」
こいつの脳内はお花畑なのか? あの先輩が恋愛? 解釈違いにもほどがある。
「そんなんじゃないよ」
「ほんとか? 何回か手を繋いでデートしてるのを見たって話を聞いたぞ」
「話ってのは大体尾びれがつくもんだ。あれは手を繋いでたんじゃない。手首を掴まれてたんだ」
「似たようなもんだろ。きっと恥ずかしくて手を繋げないんだって。お前がリードしてやれよ」
本当にこいつは何も分かってない。先輩と五分でも話せばあり得ないことなんてすぐに分かるというのに。
「あれはリードするもんじゃない。どちらかというと俺を逃がさないためのリードだよ」
「照れるなって」
駄目だこりゃ。
そんな話をしている間に講義が終わった。いつも授業はぬるっと終わるので話を聞いてないと終わったことに気づかないこともある。
「なあ、学食でも食いに行かないか?」
「ああ、行こうか」
荷物をまとめて新井と教室を出る。
「あ」
「お?」
すぐに先輩と邂逅した。なんで先輩はこんなところにいるんだ。




