バイクの文化
そこからまたバイクを走らせること数十分。
海岸沿いの景色はもう当た方もなく、眼前には青々とした木々が茂った山が見える。あの遠くか近くかも分からない山はここからどれほどの距離にあるのだろうか。そんなことを考えながら先輩にしがみつく。先輩は相変わらず、すれ違うバイク仲間っぽい人に手を振っている。知り合い多いし、よくヘルメット越しでも分かるな。
そこからさらに山に入ること数分、目的地が見えてきた。さっきの海沿いにあった道の駅とは異なった様相で、とても新しく、最初にイメージしていた道の駅そのものだった。駐車場もより広く、バイクがその半分を占めていた。とても多い。
先輩は例に漏れず、そのバイクの列に並んでバイクを止めた。
「ふぅ……」
腰に手を当て少し伸びをしてから先輩が息を吐いた。流石に少し疲れたんだろうか。
「ん?」
そんな俺の考えを読んでか、視線を感じたのか俺の方を向く。
「別に疲れてるわけじゃないぞ。単に同じ姿勢が続いたから凝っただけだ」
「なんで分かるんですか」
「私だからな」
「なんですかその理由」
「冗談だ。純粋にセンが分かりやすいだけだ」
会話をしながら道の駅の施設内に向かう。途中、バイクに乗っているであろう人たちとすれ違うが先輩は一瞥もせずに進む。さっきまですれ違うほとんどのバイクに手を振っていたのに。
「岩先輩」
「なんだ?」
「あの人たちは知り合いじゃないんですか?」
「あの人たち?」
「さっきすれ違ったバイク乗ってそうな人たちですよ」
「なんだ、セン。お前バイクに乗ってるやつら全員知り合いだと思ってるのか?」
「いや、そうではないですけど。岩先輩すれ違うバイクによく手を振ってるじゃないですか」
「ん? ああ! あれは知り合いだから手を振ってるんじゃないぞ」
「え? そうなんですか」
「あれはヤエーっつって、まあバイク乗りの挨拶みたいなもんだ」
「そんなのあるんですね」
「バイク特有の文化ってやつだ。お前も乗りはじめたら分かるさ」
「俺も乗るんすか?」
初耳だ。俺はこれからカメラだけでなくバイクまで買うのか。そんな金なんてないぞ。
「大丈夫だ。割のいいバイトを紹介してやろう。あと安く買えるところも」
「それはありがたいですけど」
だからなんでこの人は俺の思考をさも当然かのように読むんだ。
「そっちの方がお前も気兼ねなく遠くへ行けるだろ?」
「それはそうですね」
いや、違うな。危うく納得されそうになった。確かにそれは事実だけれど、別に遠くになったら電車とかを使えばいいんだ。危ない危ない。この先輩に乗せられて教習所の値段を調べそうになった。
「センはなにか好みのバイクとかあるか?」
「あー。どうでしょう。先輩のバイクも好きですけど、さっきすれ違ったカウル? あのレースで乗ってそうなバイクも好きですね」
「あー、ssか」
「ss?」
「スーパースポーツってやつだ。ほらこんなやつ」
そう言って先輩は駐車場のバイクを指差す。
「そうですそうです。なんかザ、バイクみたいな感じで好きです」
「速いしな」
「確かにめっちゃ速そうですね」
「ま、公道じゃスピードを持て余すんだけどな」
先輩はそう言ってケラケラと笑った。こんな会話をするだけでまたバイクが少し欲しくなってきてしまう。俺、こんなに流されやすかったっけ。




