先輩 対 後輩
「ちょっ! 渡辺さん?」
「分かってます先輩。わ、私は分かってます!」
渡辺さんは両手を小さくぶんぶん振りながら言う。
「お? なんだなんだ?」
先輩はニヤニヤし始めた。これはまずい。このままだと渡辺さんまでこの先輩の餌食になってしまう。
「渡辺さん、いったん落ち着こう?」
「わたしは冷静でふ!」
いかん。絶対に冷静ではない。
「先輩はこの人に脅されてるんですよね。この人は不良さんなんですよね。分かってます!」
「私が不良か」
先輩はふんふんと頷いている。今何を考えてるんだ。俺はこの地雷に溢れているようなこの場でどう立ち回ればいいんだ。
「不良さん! 私に何してもいいので先輩を解放してください!」
この先輩の前でそれは禁句だ、渡辺さん。何なら今すぐ逃げてくれ。この人にそんな何をしてもいいなんて言ってはいけない。生殺与奪の権利をこの人に与えてはいけない。
「何してもいいのか?」
「は、はい! それで先輩を解放してくれるなら」
「あんた、名前は?」
「渡辺鈴です」
「よろしく、リン。私は岩合水樹だ。好きに呼んでくれ」
「え、えっと。よろしくお願いします」
渡辺さんはおずおずと頭を下げる。
「それで何でもって話だが……」
一体何を要求する気なんだ。まだ渡辺さんは高校生だぞ。
「リン。その提案はとても魅力的なんだが、すまんな。センを手放すには足りないな」
「セン?」
「そう。川内だからセンだ」
「……なるほ、ど?」
「渡辺さん」
「あ、は、はい!」
とりあえず彼女も落ち着いてきただろうから出来る限り優しい声色で話しかけた。この子は人見知りなのに何か思い込むと猪突猛進になってしまうんだ。だから出来る限りゆっくり話す。
「岩先輩はこんな感じだけど、別にいじめられてるとか脅されてるとかないから大丈夫だよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん。俺のためにありがとうね」
「い、いえ、先輩が困ってるなら私はなんでも……」
渡辺さんは急に声を小さくして俯いてしまった。勘違いされるようなこの人が悪いんだし、気にしなくてもいいのに。
「せっかくだ。三人で行くか!」
「いや先輩、バイクは二人乗りでしょ」
「……確かにな」
先輩は少し考え込むように手を口に当てる。
「よしセン。バイクの免許を取れ」
「そんな簡単に言わないでくださいよ」
「でも気持ちよかっただろ?」
「まあそうですね」
「じゃあいいじゃないか。バイク乗ったら可愛い子に合法的にくっついてもらえるぞ」
それは魅力的だな。
「ま、それはおいといて。じゃあ車で行くか?」
「え? 岩先輩、車もってるんすか?」
「いや、借りる」
「あのー……」
そこで渡辺さんが会話に入ってくる。
「すみません。私、この後用事があって……」
「あー、だそうです岩先輩」
「そうか。それなら、しゃーないな」
先輩は意外とあっさりと引き下がった。




