バイト先への襲来
「あ」
土曜日、俺がファミレスでバイトをしている時、岩先輩がやってきた。先輩は俺にまだ気づいていないらしく、席の案内を入り口で待っている。いつもならすぐに駆けつけて案内するところだけれど、そうはいかない。俺が今ここで働いていることがばれたら先輩に何を要求されるか分かったもんじゃない。
「ごめん。渡辺さん、あの人の案内頼めるかな?」
「先輩が頼むの珍しいですね。……分かりました。頑張ってみます!」
「ありがとね」
「いえいえ、先輩にはお世話になっているので」
渡辺さん人見知りなのに申し訳ない。
「い、いらっしゃいませー。こちらへどうぞ」
俺はその動線から見えないように動く。渡辺さんは無事に先輩を席に届けてくれたらしい。良かった。あとは配膳と会計も別の人に任せれば問題ない。
「あのー先輩。あの人先輩のお友達ですか?」
岩先輩を案内し終えた渡辺さんがそう訊いてくる。
「んー、友達といえば友達だし、友達じゃないといえば友達じゃないかな」
「よく、分からないです」
「俺もよく分からない。どっちかというと俺があの人の下僕っていう方がしっくりくるな」
「え! 先輩そんな趣味があったんですか!? 私も頑張った方がいいのかな……」
「いやそんな趣味はないよ。なんだろう、どちらかというとロケット団に捕まったポケモンみたいな感じ」
自分で言いながら言いえて妙だなと思った。
「じゃ、じゃああの人は悪者なんですか?」
怯えた様子で訊いてくる。そんなプルプルしなくても。
「いや、悪い人じゃないよ。強烈なだけで」
「……なるほど?」
ま、渡辺さんがしっかり先輩と関わることはないしきっとあの人の強烈さは分かる日はこないだろう。
「あ! 呼び出しです」
「了解」
ふっと番号を見るとさっき先輩が案内された卓だった。渡辺さんはトテトテとその席に向かった。遠目で注文の様子を伺う。まあ渡辺さんもあと少しで一年だ。先輩も知らない店員に変なことは言わないだろう。問題なく注文をとれるはずだ。
そう思っていた時が俺にはありました。先輩は渡辺さんの手首を俺の時の様に掴んで何か言っている。渡辺さんは蛇に睨まれた蛙のようにプルプルと震えているのがここからでも分かる。蛙というか小動物のようだけど。先輩から逃げようと必死の抵抗で離れようとしているも手首を掴まれて逃げられていない。なんなら引っ張られて近寄ってる。「ひぃっ……!」という声が聞こえてくるようだ。本当に何やってるんだあの人は。
「何やってるんすか」
「おうセン。やっと出てきたか」
「なんで知ってるんすか」
「ん? 店のガラスでお前が見えたかに決まってるだろ。それでここに来たのに全然お前が来ないからさー」
「とりあえず手離してあげてください。怯えてるんで」
「せ、せんぱぁい……」
「この子かわいいな。お前のこれか?」
そう言って先輩は小指を立てる。
「違いますし古いですよ」
「なんだ失礼な」
「ほら早く離してください」
「分かったよ。ほら」
先輩が離した瞬間渡辺さんは先輩の間合いから一瞬で遠ざかった。
「じゃあセン、注文とれ」
「はいはい」
「はいは一回だ」
「……承知いたしましたー」




