変わる景色
「どうだ? こてこての観光地も捨てたもんじゃないだろ?」
「そう、ですね。とてもキレイです」
先輩も横に座る。
「あと少し待とう。ここの夕暮れもいいんだ」
「夕暮れにはまだ時間がありますけど」
「ん? たしかにそうだな。ま、何も考えずに夕暮れまでゆっくりしようや」
そう言って先輩は軽く伸びをした。
「でもやっぱり普段の生活からか、時間が気になってしまいますね」
「現代病ってやつだな。だからたまにはこんな時間を過ごさないと本来の生き方が出来なくなっちまう」
「本来ですか?」
「そうだ。元々昔の人間には暗いか明るいかしかなかったんだから。一時も十二時も二十一時だって昔は存在してなかったんだ」
「でも時間は会った方が便利ですよ?」
つい反論してしまうのは俺がまだ先輩の言う現代病から抜け出せていないからだろうか。
「ははっ! そうだな。間違いない」
先輩は快活に笑う。
「セン。私はな、便利を全てそぎ落としたその非効率さが人間らしさだと思うんだよ」
「非効率さ……」
「だって、人間言ってしまえば第一次産業さえあれば何とかなるんだ。あとは便利さの付け加えだよ。そう考えると便利さも非効率さの一つとも言えなくはないな」
先輩の言う理論はとても哲学的で、納得できるようなよく分からないような。
「よく分からないです」
「だってよ、セン。昔に比べて効率的に飯を作れるようになったのによ。まだ全員働いてるんだぜ? それが非効率的以外に説明つくかよ」
なんかそう言われるとそう思ってきた。俺が流されやすいのか、先輩の謎の説得力なのか。
「まあなんだ。つまり、少しは自然と生きようぜ、って話だ」
「それなら分かりやすいです」
「というわけで、今度キャンプにでも行こうか」
「キャンプですか?」
「おう。ああ安心しろ、キャンプ道具は全部私が持ってる」
キャンプ、キャンプか。確かにこの人には大学生あるあるのグランピングじゃなくて自力のキャンプの方が似合ってる。
「はい。あ、じゃあせめて肉は俺が買いますよ」
「いいのか? 頼んだ」
「はい。きちんと精肉店で買います」
「セン。分かってるじゃないか!」
そう言って先輩は俺の背中を叩く。痛くはないが衝撃で頭が揺れる。
「お、セン。前を見ろ。そろそろ日が落ちるぞ」
俺は顔を上げて眼前に広がる景色をみた。それは先ほどの景色とは文字通り色が変わっていた。水平線は赤く、キラキラと光りを反射している。さっきまで落ちていた木漏れ日はなりを潜めて、正面から伸びるオレンジ色の矢が俺の顔を刺す。
こんな景色が見れるなら時間を忘れてみるのも悪くないなとそう思った。




