第九話「普通の来客」
私、朝倉さくらは家路を急いでいる。
家業の手伝いのためである。
その家業というのがまた、普通の人はできれば関わりたくない職業に上位ランクインしそうなものーー探偵業である。
母であり所長の朝倉朝香は変わり者で、司法試験に合格したのに弁護士会には登録せず、知り合いの弁護士からの汚れ仕事を受ける側にまわっている。
いや、表向きはそういう変人だが、実際は『とある重要顧客』からの依頼が多い。母はもともとその『とある重要顧客』側の人間だったので、成り行きらしいが、それならなぜ法学部大学院まで出たのかは教えてくれない。
もっとも、その『とある重要顧客』の一組織のもとで戦闘訓練を受けさせられた私も…まぁ同じか。
コンビニの前を通りかかると、いかにも不良ですという風貌のうちの女子生徒がいた。
以下、ヤンキーと呼ぶ。
さっきも述べたのだが、私は家路を急いでいる。
関わらないに越したことはない。
「おい!そこの1年生!」
…無視。
「おい!聞こえてんだろ?」
…絶対無視、早歩きで立ち去る。
…のだが、追いかけてきて後ろから襟を掴まれた。
はい、この時点である程度やり返しても正当防衛が成立する…戦闘訓練を受けたせいで手加減を忘れると過剰防衛どころかこっちが加害者になってしまいそうだが…。
ということで、気がつくと体が勝手にヤンキーをアスファルトに押さえつけ腕を捻り上げていた。
訓練ではこの後手錠とか使ってたっけ…?
「ご用件は?」
「………。」
「黙秘ですか?まぁいいです。先程あなたは粗暴な言動で威圧してお金とか出させようよしてましたね?ちょっと法律のお勉強しましょうか?」
「…。」
「刑法249条、人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。はい復唱!」
「…。」
「ふーくーしょーう!」
「…すみません…」
「というか、私もこんなことしてる場合じゃなかった。 真っ当に生きろよ!」
と言って解放する。
「…チッ…」
後ろから立ち上がり服の汚れを払いながら舌打ちするヤンキーの独り言が聞こえた。
「もっとザコそうなヤツを狙おう…あ、チビな1年が来た、あいつでいいや…。」
(まだやるのかよ!懲りないヤツだな。でもこれ以上時間をかけられない。ごめん、後ろから来るチビな人…)
そ、そんなことがありつつ家に着く。
もともとは農家なので広い祖父母の家の敷地の道路に面した位置に、事務所兼自宅を構えている。
この構成が成立する時点で「田舎だなぁ」と思うのだが、これでいて駅から徒歩10分という立地である。
ハッキリ言って駅前と幹線道路沿い以外、のどかすぎる。
家(事務所)の玄関を開けると、応接室に結城雪と高梨香菜がいた。
「え、二人とも私より後に教室を出たはずなのに…?」
「そもそも、なんでうちを知ってんの?」
疑問の雪崩が脳を直撃する。
私は、尾行とか盗聴器の設置とか探偵の仕事は向いていると思うが、物語の探偵のような推理は考えが整理できないので向いていないらしい。
「落ち着いて。いきなり押しかけて悪かったわ。経緯を順を追って話すわ。」
結城が言う。
「状況整理が遅れると死ぬよ?」
母が要らんことを言う。
『とある重要顧客』については第三者には悟られたらまずいって!




