第七話「普通の万引き」
…気分は最悪だ。
昔からアタシは不器用で人付き合いに失敗する。
今日もクラスの生徒に喧嘩を売ってしまった。
「…お前の親、医者なんだろ?金持ちなんだろ?」
普通に頭良さそうで金持ちっぽいし、仲良くなっておけば得かも、と思って話しかけようとして、出てきたのがこんな言葉だ。
これじゃただの最低なヤツじゃん。
その結果論破され、感情に任せて彼女のカバンをゴミ箱に突っ込んだ。
なのに彼女は慌てるそぶりひとつなく、アタシがゴミ箱に入れたのを知っていたかのようにすぐに見つけ出して、クラスのほぼ全員が聞いてる前で『256倍で仕返しする』と宣言してきた
結果はどう考えてもアタシの負けだ。
そして、下校途中、コンビニに寄ろうとしたら上級生に絡まれた。
コミュ症でもナメられないようにギャルっぽくしてたのが裏目に出たっぽい。
「金持ってんだろ?」
…さっきアタシが彼女を不快にさせた言葉だ。
言われると嫌な気分になるな…。
いや違う、これは有り金全部よこせという意味だ。
「…持ってません。」
「…ああ?じゃぁ、コレとおんなじのパクって来いや」
…ビビってうなづいてしまった。
今まで悪いことをまったくしたことがないと言えば嘘だが、少なくとも万引きなんてしたことない。
(…なんでこんなことに…)
言われた商品を手に取り、服の裾に隠そうとした。
手が震える。
心臓がバクバクしている。
その時、商品を持ったその手を、誰かにつかまれた。
「そのコンプラ違反、本当にあなたの意思かしら?」
…え??
その声の主は、さっきアタシが喧嘩を売って返り討ちにしてきた、彼女ーー結城雪だった。
「おおかた、店の前の不良に命令されたのでしょう?」
「…!!!!!!!」
声すら出ない。首がもげるほどにうなづいた。
「私に任せてもらえるかしら?この場を切り抜けられると思うわ。」
「…なんで…?」
「何故止めたかって聞きたいのかしら?目の前で犯罪が行われようとしてるなら、止める権利と義務があるわ。」
「……。」
「そうじゃないって…?なんで喧嘩売ってきたいけすかないやつを助けたかって聞きたいのかしら?…あなた、今にも泣きそうで見てられなかったのよ。」
………。
アタシは感情に任せて嫌がらせをしたのに、なんなのこの人は…。
「…任せる。…じゃなくて、助けて!」
…この人なら、あんな上級生なんて、256倍上のやり方でなんとかしてくれるに違いない。
不思議と、この人について行こうと思えたのだった。




