第五話「普通の嫌がらせ」
…さて、どうしたものか。
休み時間にトイレに行って戻ってきたら、机のフックにかけていたスクールバッグが蒸発していた。
担任がご丁寧に変人レッテルを貼ったこの私にわざわざちょっかいを出す動機がある人間、そうそう居まい。
ついさっき険悪な空気になった高梨を除いては。
(…机の中のThinkPadは盗まれていないわね。)
愛用のLenovo製のノートパソコンであるThinkPadを広げ、バッグの中のスマホの位置を探知する。
………教室の中か。
RC構造の校舎の中なのでマップの位置はあてにならないだろう。
(音を鳴らせば場所は一発のはずだけど…。
私が焦っているように見えたら高梨の思う壺では無いかしら?)
マップの表示位置が定まらないようである。
GPSの信号が拾いにくい位置ということだろう。であれば窓側ではなく廊下側の可能性が高いと考えられる。
かつ、バッグを隠せる場所…。
教室右前のゴミ箱………自然とそこでは無いかと言う仮説に行き着き、蓋を開けると予想通りの結果であった。
高梨にしてみれば、本気で悪意を持って私の所持品をどうこうするつもりはなく、少し困らせたかっただけなのだろうが、売られた喧嘩は、大人買いするのが私の性分である。
ドン!
教卓に、ゴミ箱から拾い上げたバッグを叩きつける。
「あー、なんか私のバッグ、ゴミ箱に捨てられてたわー。」
わざとくさく棒読みで教室全体に聞こえるよう大声で言う。
「私、いじめられるの好きよ?」
教室内がざわめく。
「マゾ?」「やっぱりアブノーマル?」
(…聞こえてるわよ!)
「別にドMなわけじゃ無いわ。
逆に、いじめてくる相手に、合法的かつ効果的に、256倍くらいの嫌な思いをさせて後悔させる方法を考えるの、楽しいのよねー。」
「この落とし前、さて、どうしてくれようかしら?これ、学校内だからただのいじめで処理されそうだけど、被害届とか出せば犯罪として扱われるわよねー?」
言い終わると、ざわついていた教室内が一瞬で静まり返った。
高梨は「自分は知らない」とでも言いたげに、突っ伏しているが、微かに体が震えているようだった。
(…なんか、感情に任せて行動して失敗する、可哀想な性格のようね…。)
この一件によって、クラス内で「結城に喧嘩を売るとヤバい」という一つの不文律が生成されたのであった。




