第十話「普通の不在」
『結城雪が夜中に急患で神無宮医療センターに担ぎ込まれた』
センセーショナルなニュースである。
「高熱の割に意識がはっきりしてたらしいですけどねー…それ以上は患者の個人情報なのでー」
「すでに個人情報漏洩の必要十分条件だと思うけど?」
ここで初めて間宮の母が看護師だと知ったが、患者が運び込まれた事実は漏洩してはいけないはずだ。
「担ぎ込まれた事実は本人からも皆さんにメッセージ来てますよねー」
本人が公開した事実であれば規制が緩和されると…?
いやいや、職業倫理とかデリカシーってないのか。
授業中、窓の外を見て少し考え事をする。
一般的に窓側最後部が主人公ポジションなどと言われるが、私の席は出席番号1番で窓側最前列だった。
実際にはこちらの方が、教卓から意図的に首を動かさないと周辺視野でしか映らない。
ぼーっとするには最適だった。
苗字が「あさくら」である特権として濫用することにした。
人の表情から恋愛感情を読むのは得意だ。
家業で不倫だの離婚調停だの関わって見てきたせいだ。
まず間違いなく高島は結城のことが好きだ。だが素直になれていない。
そしておそらく永遠に好意を自分の中にしまい込んで、なかったことにするタイプだろう。
次に多田。絶対に結城に惚れてる。
これは高島も言及していたが…(多田の恋愛感情をおちょくって自分の好意を隠すとか、汚いなぁ)
そして氷枕を高島に投げつけた結城。
誰がどう見ても照れ隠しだった。
あんなに感情が表に出ている結城は珍しかった。
……って、違う。
昨日の夕方の違和感の正体は…。
結城が高梨に対して気を遣っていた。
いつもの過保護ではなく、かける言葉を選んでいたり、目を合わせないようにしていた。
(何があったのか、聞くしかないね…。)
次の休み時間に、多田の腕を掴んで廊下を猛ダッシュ、旧校舎まで来た。
「…あの……息が……」
急に走らされた多田が息を切らしている。
「…何で…旧校舎…?」
「香菜本人がいたら話せないことを聞きたいの。あとデリカシーないバカと情報漏洩装置がいるから教室は要注意。」
「香菜…あぁ、高梨さん?あとデリカシーないバカは高島だとして…情報漏洩装置?」
「間宮さんだよ…。私あの人苦手だね。」
「はぁ…変な人だとは思うけど…。」
「…それで、一昨日のタクシーで何があったか、洗いざらい吐いてもらおうじゃないの!」
「…え?何で僕尋問されてんの?」
「カツ丼食う?」
「真面目なのかふざけてるのかどっちかにしてくれ!」
………。
………。
………。
「…以上です。」
「………はぁ…。何でそんなに厄介ごとを積極的に背負い込むのかねぇ。私みたいにお金もらってるわけでもないのに…。」
「…それ、元気になったら結城さんに直接聞いてみれば?カツ丼食わせて。」




