第七話「普通の治療」
午後10時。
「39.2℃…さすがに全身がだるいし節々が痛むわね…。」
普通なら喋るのも億劫だろう。
「えーっと、こう言う時はアセトアミノフェンだったけ…?」
「医師が処方するとしたら、この熱だとロキソニンの方じゃないかしら…でもその救急箱には入ってないわよ。」
だからなんでその高熱で冷静なんだよ…。
「じゃぁ買ってくる。」
財布をポケットに突っ込み、シューズボックスの上に置いてある車のキーに手をかける。
「いやいや、この時間ドラッグストアには薬剤師がいないから一類医薬品のロキソニンは買えないわよ?」
「…一類医薬品…そう言えばそんなのあったな。」
というのはいいが、やはり高熱の割に意識がはっきりしすぎだ。
見舞いに来た高島と、多田とかいう二人に指摘されなければ見落とすところだった。
つまるところ、雪はエラーログを吐かずにサイレントにダウンする厄介なプロセスだ。
「とりあえず頭冷やすわね…。あ、アイスノン冷えてない…。ヒートシンク額に乗せたら冷えるかしら…。」
いや、さっき高島に投げつけてた氷枕の中身変えろよ、それで十分だろ。
高熱でツッコミプロセスがダウンしているようだ。
「いやヒートシンク額に乗せても冷却ファンうるさくて体調悪化しそうだ…。あと、アルミとはいえ重たい。」
一言だけ、まともにツッコミを入れておいた。
午後11時。
「体温って38度超えるとヤバめよね。」
「まぁ、そうだな。」
それはまぁ一般常識である。
「これって朝鮮半島みたいじゃない?」
「………雪が意味がわからないけど意味がわかることを言ってる、これ重症だ…。」
夕方に二人に言われた症状の意味がわかった。
連想ゲームのキーワードがTTL値無限でエンドレスブレンストーミングするらしい。
体温38度北緯38度が関連付けされてしまった。
「今の体温は平壌くらいかしら…」
体温を北緯で換算するな。
「…とりあえず黙ろうか?」
…神無宮医療センターに電話することにした。
日付変わって未明。
「当直中に自分の家族を診察するとは…。」
母親としてのゆるふわな顔ではなく、医師としての顔。
「意味がわからないけど意味がわかることを言ってるんだ…。重症だと思う。」
病状を説明する。
ただ高熱とかそういうのは体温を測ればわかる。
しかも頭痛や関節痛以外にこれと言って特徴的な症状がないらしい。
「私の体調は重症…じゅうしょう…じゅうそう…重曹…炭酸水素ナトリウム…。」
また始まった。エンドレスブレンストーミング。
「…これは重症ね…。」
専門家の前で事象再現で、説明の手間が省けた。
「とりあえず脱水してるのと食べてないみたいだから、点滴と…。」
マリ、あとは任せた。




