第五話「普通のトリアージ」
娘が発熱した。
本人は「救急箱にあったアセトアミノフェンを服用したから一眠りすれば治るだろう」と言っているが、心配だった。
「本当に、大丈夫か?」
「お父様、娘のdiagnoseを信用してないのかしら?」
そう言われると何も言い返せない。
自分自身が体調不良の時に医師に病状の説明をするより的確だった。
普段の発言はシステマティックで、パパっ子だと思っていただが、ちゃんとマリの子供でもある。
昨日から雪は台所に布団を敷いていた。
「おい、なんて場所で寝ようとしてる!」
と言ったのだが、
「私が普段寝ている場所は、お父様のとの共用空間で、かつお父様のテレワークの仕事場なのよ。だから、これはトリアージよ。」
ガスレンジの上の換気扇が強風モードで回っていた。
まだ高校生で病人のくせに親に病気が感染しないように配慮するとか、ここら辺は完全にマリの思考回路だった。
あの日、電車の中で精神崩壊寸前だったマリと知り合って、終電を逃して乗ったタクシーの中でーー
「弁護士とか医者って、人の人生を左右するから、その覚悟を問う意味でも狭き門になるのは必然だよね。」
「でもさ、どんな難しい専門知識でも、自分の生活に当てはめて例えてしまえば、意外と覚えられるものだよ。」
ーーそんな上から目線のアドバイスをしたっけ。
夕方。
ピンポーン…。
呼び鈴が鳴る。
「クラスメイトがお見舞いに来てくれたよ。」
「…わかったわ。棚の上の不織布マスクを渡してもらえるかしら。面会は15分で測って。」
…お前、本当に病人か?




