第一話「普通の落雷」
6月。
まだ梅雨入り前だが、空はやたらと暗い。
朝は晴れていたし、予報も雨について言及していなかったのでほとんどの人が傘を持って来ていない。
バキバキバキバキ…
空全体からのベニヤ板を力づくで折って破壊するような音が鳴り響く。
ドーン…
その後にどこかの地上付近で爆発音。
上空と地上の電位差を解消する自然現象、いわゆる雷である。
「発光から音の到達までおよそ2秒、光速はこの距離では計算に入れてもほぼ誤差だからおよそ680mの地点に落ちたかしら?」
結城は淡々とThinkPadで地図を見ながら落雷地点を計算していた。
「この高圧送電線の架空地線あたりに落ちたかも?」
「え、電線に落ちたら激ヤバじゃん…」
高梨はヤバいという割にテンション高め。
「だから、高圧鉄塔には送電線よりもさらに上に、避雷“針”ワイヤーがあるのよ。」
「針なのにワイヤー、突っ込まないと死んじゃう病の結城さんが高梨さんのためにわかりやすさ重視に妥協してる?」
同じく死んじゃう病罹患者の朝倉が別ベクトルのツッコミを入れる。
だがーー。
「ひらいしんって何?」
本当にヤバかったのは高梨の常識レベルだった。
「平井針さんっていう人が作った機械でね、雷から守ってくれるのよ。」
子供向け比喩っぽいのに工学的…。
「今アメダスの情報見てるんだけど…和良沼町の気温7℃、神無宮市18℃…。プチ寒冷前線になってるわね。」
「ということは、待ってれば雨は上がる?」
「でも寒いわね。」
朝倉と結城は理系同士特有のテンポで勝手に会話を進める。
「傘ないんだが…」
高島が会話をぶった斬る。
「だから、待っていれば止むわよ。寒冷前線だから。」
「いつも言ってるが、中間の説明がないんだよお前は…。」
高島は説明が不十分であることに不満のようだ。
ピカッ…ドゴーン
0.5秒もなかった。
「近いわね。」
…
…
高梨が結城にしがみついていた。
大きい音が急になったりするのが苦手なのか、「ヤバいじゃん?」と言ってたハイテンションはビビってるのを隠すためだったのか。
「あー…雷怖いのかー…」
と言ってから結城に睨まれて「しまった」という表情の高島。
「私も怖いわよ、雷は。」
意外だと思った。
「サージで自宅の父の検証環境の機器ぶっ壊れるリスクがあるし、停電時にデータが飛んだり…。」
あ、恐怖のベクトルが120°くらい違った。
「因みにさ、高島は怖くないの?」
朝倉が聞く。
「まぁ、別に?」
「じゃぁさ、針金付きの凧持って校庭走ってきてよ!」
……。
ベンジャミン・フランクリンかよ!
朝倉、お前が一番怖いよ!




