第十九話「普通の親の影響」
死屍累々とはこういう状況を指す。
父は一睡もせず電車で都心まで1時間半かけて作業現場に行き、オフィスに着荷していたスイッチにコンフィグを流し込み、コアスイッチに4台のスイッチをカスケードし、大量のケーブルをパッチするという作業を終えて帰宅した。
どう考えても1人日の作業ではない。
私が帰宅しようとすると、アパートの階段を登りきれず3階と4階の間の踊り場でしゃがみ込んでいたので、背中を押して…いや私の身長では尻を押して無理やり自宅まで運んだ。
かくいう私も頭痛が残っているのでこの重労働は辛かった。
母が帰宅してきた。
いつもなら当直明けでもピンピンしているのに、今日はグロッキーだった。
寝不足ではなく、神経を使う処置をした時、こうなることが多い。
食卓を囲んで3人が突っ伏している。
「雪は、子供の頃まったく手がかからなかったよね。」
母が顔を机に埋めたまま言った。
「雪って、実はもっと進んだ異世界から転生してきたんでしょ?」
父が謎の振り。
「…はい?」
「言葉話すのも物心つくのも遅いから心配してたけど、喋るようになったら文章構造はしっかりしてるし、小学校上がる前に丁寧語と尊敬語と謙譲語を完璧に使いこなしてたし…」
「…たまたまよ。自分でもちょっと普通じゃないとは思うけど、その発想はないわ、お父様。」
「そう、それに絶対に口に入れてはいけないものは口には入れなかったし。」
(…それって、当たり前なのでは…いや、そうではないから誤飲というのがあるのか。昨晩は乳幼児の誤飲事故の処置してたのか…。)
それで疲れていたのかと納得する反面、それでも母には父と違って当直でほぼ寝ていないはずでも4階までスキップしながら階段を登ってくるバカみたいな体力がある。
「どちらかといえば、当直やりまくってるのに全然疲れないお母様の方が異世界人だと思うわ。」
「これはね、恒星から発せられる特殊な魔力波が毛細血管に当たることによって体内の自由魔力子が誘導されて流れる魔法エネルギーによるものなの。名付けて『緑黄色魔法』」
グロッキーで突っ伏したまだが、妙に科学的なボケを返す程度の余力はあるらしい。
「光合成と思いきや電磁誘導かよ?!」
こっちもツッコむ体力はあるのか。
階段は登りきれなかったくせに…。
「地球の磁場でも届くのね、そのエネルギー波…」
この両親にして私あり。
頭が痛かろうが、突っ伏したまま会話に乗ってしまう。
「それで起きてても血流が重力に逆らうように調整して、横にならなくても循環器の負担を減らせる」
血圧の代わりに魔力使ってる宣言…?
「医者の無養生ならぬ医者のプラシーボ…」
私はボソッと呟いた。




