第十八話「普通の乳幼児」
乳幼児というのは、人間の一生において最も厄介なフェーズである。
人類が二足歩行するように進化したことによるメリットは何といっても脳の大容量化だ。
脳の荷重を真っ直ぐに支えるから脳が大きくても首に負担が少ない。
一方で、二足歩行のために犠牲にしたのが、出産や子育てである。
二足歩行のための足腰は産道を狭める。
その結果、子供は未熟な状態で生まれて、母親の胎内ではなく社会に守られた外の環境で育つ。
そこに加えて脳が発達しすぎたせいで子供が十分に育つのに時間がかかりすぎるという要素もある。
乳幼児の頭は小さい。
そのくせに、口は異様に大きい。
そして、手の届く範囲にあるものは何でも口に突っ込むという習性。
誤飲事故を起こすために生まれてきたのでは無いかと思ってしまうことすらある。
雪がいう表現なら『人体ハードウェアと思考OSの設計ミス』だろうか。
そう言う雪にもそういう時期があったんだけどね…。
「X線撮影と、内視鏡の準備!」
「内視鏡は用意してあります。」
「OK、あと、1歳と何ヶ月だっけ?」
「えーっと…1歳4ヶ月ですね。」
「電池の種類とか聞いてる?気管に行っててもハイムリック法はちょっとリスキーかな…。」
人体構造設計ミスな上に、処置においても全部のパーツが小さくて繊細さを求められる。
乳幼児の内視鏡、はっきり言って得意という医師は少ないだろう。
自宅では畳に敷き詰められたLANケーブルにタグを貼り、コンフィグと手順書を突貫で作ってという長い夜の戦いが繰り広げられている一方、こちらでも長い夜が始まったのであった。




