第十六話「普通の調停役」
「よう、多田!」
後ろから、つい最近覚えた声で呼ばれた。
声の抜きは高島だった。
「何、お前結城のこと気に入っちゃったの?」
言われて心臓が止まりそうになった。
後をつけていたのがバレたのかと焦った。
いや、バレていたのかもしれない。
僕は高島に昨日の出来事と、さっきのこと、目の前でガラの悪い上級生と普通に並んで歩いている状況を説明した。
すると高島は…。
「あいつは、悪いやつじゃない。それは断言できる。」
勝手に語り始めた。
「普通は、誰かが悪いことをして他の人に迷惑をかけたら、その清算をするために悪いことをしたやつを制裁するだろ?」
「…そう…だな?」
まあ、それが普通だと思う。
高島が続ける。
「結城の場合は、違うんだよな。『悪人を制裁したつもりがヴェルサイユ体制になる可能性もある』ってさ。」
「…ヴェルサイユ体制?」
話が飛びすぎて理解が追いつかない。いや、なんか歴史の授業で習ったような気もしなくもないが、何だっけ?
「第一次世界大戦で敗戦したドイツが、イギリスとフランスに法外な賠償金をふっかけたってやつ。」
何となく思い出した。
「結局ドイツが賠償金の支払いが無理すぎて第二次世界大戦に繋がったんだっけ…?」
「そう、俺も細かいことはよく覚えてないけど、『制裁は負の連鎖を生む』と言いたいらしい。」
…言いたいことはわからなくもない。この理屈だと植民地支配されてた側の視点が抜けている気もするが。
高島が続ける。
「…普通は、な。」
なるほど、ここでも結城が『普通ではない』ということがポイントらしい。
「『加害者も含めて最終的にステークホルダー全員がWin-Winになることが重要』なんだってさ。」
いや待ってくれ…知らない単語出てきたんだが?
ステークホルダー?って何だ?
Win-Winって高校入学したての女子高生が使う単語じゃないよな?
やっぱり普通じゃない(褒め言葉)。
「え、ステークホルダーって何?」
「俺に聞くより、結城に直接聞いてみれば?」
さっき目の前で何が起きたのか、何となくわかった気がした。
どんな最悪な状況でも丸く収めてしまう、結城にはそんな力があるのだろう。
彼女への興味はさらに強まっていた。




