第十四話「普通の和解」
「おい、お前!」
気づかれてしまった。
私の特徴で一番最初に上がるのは、身長の低さという一目瞭然なものである。
気づかない方がおかしいかもしれない。
「…あ?ああ、昨日パクチーに万引き教唆してた不良生徒ね?」
「お前、何様のつもり…」
攻撃の意図はないらしいが、食ってかかってくる雰囲気を察した。
「悪いわね、3分待って貰えるかしら?じゃないと頭痛からくる吐き気であなたを吐瀉物まみれにしてしまうから」
口に手を当て、今にも吐きそうな演技をする。
どこかで聞いたが、チンピラやヤクザみたいな裏社会寄りの人は吐瀉物をものすごく嫌がる傾向があるとか。
「……なんなんだよお前…。」
嫌がるとかではなく普通に見逃してくれた。
⭐︎アセトアミノフェン服用中⭐︎
「お待たせしたわね。アセトアミノフェンの血中濃度が上がるまで頭痛は続くけど会話はできるわ。それで何だったかしら?」
確かアセトアミノフェンの血中濃度は服用から1時間後が最大だっただろうか。
とりあえずこれ以上悪化しないだろうという安心感で気分的に落ち着いたので会話はできそうだ。
「…いやもういいわ…。」
不良は何かを言おうとしたが、今の会話でどうでも良くなったらしい。
「一応言っておくが私は3年で先輩だからな?口の聞き形をつけろよ?」
論点がすり替わった。
「…敬うべき資質がないと判断した相手に敬語を使うのは敬語に失礼よ。まあ、どうでもいいわね、そんなこと。」
言ってから、怒らせたかも?と思ったが、そうでもなかった。
「…とりあえず、店長に謝ったから。」
驚いた。
商品の入ったビニール袋に殴り書きで「店長と交渉した。和解できそうだから謝罪しておけ」と書いた紙を入れて投げつけたが、素直に従ったらしい。
「それは良かったわ!これでうちの生徒全員出禁とか言う措置は免れたわね!」
私がさらっと所感を述べると、
「…あ…万引きとかやってると、そういうことになるのか…。」
と純粋な反応が返ってきた。
私より長く生きているはずのこの不良は、私より全然社会というものをわかっていないらしい。
実際あった事例を話してやった。
「店長とフランチャイズ先がちょっと悪い人で結託すると、アルバイトが『万引きを知りながら放置した』とか罪をなすりつけて裁判で法外な損害賠償請求されて人生壊されることもあるわ。」
「………。」
「まぁ、店長も『被害額は大したことないから、もうやらないならそれでいい』って言ってくれてたし、そういうことよ。」
会話がひと段落ついたところで、素朴な疑問をぶつけてみた。
「…それにしても…」
「なんだよ?」
「万引きしてたのがうまい棒1本ずつなのよ?それ聞いて確かにそれなら大した被害額にならないの納得したわ。」
「……。」
「少し大きいからバレないようにするのちょっとハードル高い、でも慌てて隠すと潰れるっていうゲーム性?」
「……。」
「…理解できないわ…。でもまぁ、万引きシミュレーションゲームとか作ってSteamで配信したらちょっとした話題にはなるかもしれないわね。」
正直、生活苦での食品の窃盗以外の動機なんて本人にしかわからないだろう。
「……お前、なんか変な奴だな?」
「今までで65535回言われてきてるわ。」
普通じゃないことなんて、私が一番わかっている。




