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第55話「黑谷家の適応力」

『サイヤ人みたいな年の取り方してる人、探したら割と見つかる説』



 続いてのターゲットは、ブランドの紙袋を抱えたこちらの女性。



「お姉さん今大丈夫ですか?」


「あっ大丈夫ですよ」


「ちなみに普段は何されてます?」


「都内のメーカーで広報を」


「そうなんですね。あの、これが本題なんですけど、おいくつか伺っても……?」


「あっ全然大丈夫です……って言っても、アラフィフの年増でよければ」


「アラフィフ!?」


「そうですそうです。えっと……免許証、とかですかね」



 そう言って差し出された免許証には確かに「昭和5■年」の文字。



『偽造?』


『偽造言うな』



「……あの、ちなみにメイク落としてもらったりって……」


「メイクかぁ……今日すっぴんなんですよね。手抜いちゃったので」


「お姉さんすっぴんですか!?」


「お姉さんって年でもないですって。むす……娘も今年16とかになりますし」


「あっ娘さんもいるんですね……」


「そうなんです。……あっ、これとかBBQ行った時のやつなんですけど」


「もう姉妹じゃないですか、これ」



◇◇◇



「てな感じでお義父さん、水曜日のやつでバズってたんだけどさ」


「あっこれ黑谷ちゃんの妄想じゃなくて!?」


「うん、マジで地上波デビューしてる」


「私ですらしてないのに!?」


「まあアニメ化はないだろうしね」


「何の話?」


「あっ万が一になったら私の声優はこれが出世作になりそうな若手でよろしくね」


「だから何の話???」



 そして「ほら、ちょっと燃えてる」とドパガキ御用達short動画を見せてくる黑谷ちゃん。


 そのコメ欄では父さんに対する「どうせ顔採用だろ」みたいな誹謗中傷と性欲の数々。


 まあ腹が立たないと言えば嘘になるけれど、今の父さんを見ると否定しきれないというか、まあ言われる方が悪いよねくらいの感じではある。


 なんかTSしてから人付き合いがもっと上手くなったというか、まあそんな感じだし。



「……てか待って、ヤバいこと気がついたんだけど」


「何? 白山くん」


「……いや、流石になんだけどさ。……父さんとかわたしのTS症、そろそろ黑谷ちゃんのご両親に話した方がいいんじゃないかな、って……」


「あー……」


「いやさ、もう既定路線な感じじゃん? わたしが黑谷セイになるの」


「既定路線にするよ」


「ほら犯人もこう言ってるし」


「……確かにちゃんと話しとかないとまずいか、母系が不明じゃ困るし」


「サラブレッド?」



◇◇◇



「騙していて申し訳ありません」


「……?」


「セイに姉はいなくて、父親……私は別に転勤しておらず、これが現在の白山カイトです。半年前にセイが、三ヶ月ほど前に私が診断され、父子揃ってTS症です」


「……」


「一応見せておきますが、この写真のこの少年が去年のセイです」


「あ、あんま見ないでほしいんですけど……」


「……?」


「これが私とセイの診断書です。今後5年間は国から補助金が出ることになっています」


「……」


「TS症の治療法は見つかってないし、私もセイも服薬等の対症療法も行ってません」


「……?」


「それ以外は至って健康体ですし、二人とも「まあ別にこの人生でいいかな」という感じで前向きに捉えてます」


「……」


「改めて、黙っていて申し訳ありませんでした」


「すいませんでした」


「……つまり、カイトさんは無事ということですね?」



 父子とは言えない見た目ながら父子揃って頭を下げたところで、黑谷ちゃんのお父さんはそう尋ねる。


 こくこくと父さんが頷くと、彼はふっと笑った。



「よかった、心配してたんです。あまりに急なものでしたから、何かあったのではないかと。これで、とっておきのスパークリングが漸く開けられる」


「……! あの約束、ソウタさん覚えててくれたんですか……?」


「待って待って! えっと、つまりセイちゃんもカイちゃんもほんとは男の子で……? しかもカイちゃんはいなくてセイちゃんのパパのカイトさんだってこと……?」


「うん、ママ合ってる」


「えっと……えっと……? えぇっと……」



 早々に受け入れてくれた黑谷ちゃんのお父さんとは対照的、頭を抱えてお目々ぐるぐるで机に突っ伏す黑谷ちゃんのお母さん。


 そして数十秒の間を挟んだ後、彼女はぐるぐる目のまま顔を上げた。



「……じゃあ、裸の付き合いとか、しちゃう?」



 ……なんか、変な感じで適応したっぽい。

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