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裏20話「妥協案」

「いや〜、70話ぶりくらいですね、穂村先生」


「相変わらずお前は何を言ってるか分からんな、黑谷」



 残念ながら白山くんはお葬式で図書研はお休み、珍しくみんな別の予定。


 人生において、不幸が重なることはそう珍しくない……らしい。


 いや私にとってはものすごく珍しいんだけど、凡人の皆さんにとってはありふれたことなんだとか。


 大丈夫、ここツッコミどころ。


 まあ私にとっては今日がそういう日だったというだけ。


 反省すべきは自らの幸運にかまけて調整をサボっていたことくらいだ。



「という感じで、妥協案で保健室に遊びに来たんですけど」


「妥協するな若人。友達いないのか?」


「いませんよ。こんな美少女に釣り合うのなんてそれこそ白山くんくらいですし」


「そうか」


「……いやツッコミどころですよ? こんなに可愛くて性格のいい女の子がぼっちなわけないじゃないですか。友達くらいいっぱいいますって」


「……」


「……なんですかその顔。別に嘘吐いてませんって」


「黑谷、まさかお前「挨拶されたら返すし話しかけられたら普通に話すけど自分から関わりに行くことはまずないクラスメイト」を友達カウントしてないだろうな?」


「ギクッ」


「口で言うな」


「……はいはい、そうですよ? 認めればいいんですよね? どうせ白山くんとか図書研がなかったら私まともに学校生活送れてませんし? 所詮恐ろしく顔整いなだけのコミュ障だって私の口からお伝えすればいいんでしょう?」


「不貞腐れるな。というか誰に向けてだそれは」


「もちろん読者の皆さんですけど」


「トゥルーマン・ショーのつもりか?」


「穂村先生良いツッコミしてますね、保健室の先生らしくないです」


「お前はこの仕事にどんな印象を抱いてるんだ一体」


「もちろん恋愛相談とか、口に出すのは憚られるような男女問わずのあれこれとか」


「帰れ」



 そして穂村先生はもう一度私の目を見ると「はぁ……」とサイズで言えば中の上くらいの深さのため息を吐いた。


 よくこの私、勝ち組アルティメットの黑谷アメに憐れみの目を向けられるものだと感心さえする。


 ……待って、結構向けられてる?


 まさか今の私、残念な美少女枠……!?



「全く……お前を見ていると昔の自分を思い出して嫌になるな」


「へー、そんな美少女だったんですか?」


「ああ美少女だった」



 即答?



「おまけに成績は学年トップ、向かう所敵無しというやつだ」


「じゃあ真逆ですね。私下から数えた方がだいぶ早いですよ」


「誇るな」


「で、なんで自認黑谷アメになってるんですか?」


「ぼっちだったからな、私も。友達を作らないことがカッコいいと思っていたんだ」



 ギクッ。



「周囲の女子高生らしい女子高生を冷笑してたし、恋愛というものをうっすら馬鹿にしてた」



 ギクギクッ。



「「こんなの社会に出て役に立つわけないじゃん」っていっつも思ってた」



 グキッ。



「な? だいぶお前だろう?」


「……名誉黑谷アメの称号を差し上げます」


「いらん」


「でも残念でしたね、穂村先生。今の私はなんてったってシャニカマゾーンを突破したアルティメット黑谷アメ、友達付き合いも青春とやらもモチベフルパワーなんです。……ただ、ちょっとだけ……」


「ちょっとだけ?」


「……友達の作り方を、忘れちゃっただけで」


「はあ……そんなとこまで同じか」



 もう本日何度目かも分からないため息を吐きながら私の目を覗き込む穂村先生。


 それから彼女は糸が緩んだみたいにクスッと笑った。



「いいか? 黑谷。お前のような変わり者に寄ってくる人間は少なからずお前に興味を持っている。言い換えれば、お前に対してマイナスな感情は抱いてない。別にカッコつけなくてもカッコいいと思ってくれるし、怖がらないといけないような悪意も持ってない。適当に表に出せることを話してれば、それなりに付き合いのある知り合いくらいにはなるさ」


「……そんなもん、なんですかね」


「ああそんなもんだ。それに白山から聞いたぞ、お前、白山には自分から話しかけに行ったんだろ?」


「い、いや、それは……だって……白山くんが……」


「お、本業の出番か? いいぞ、将来の相談位は乗ってやる。TS症患者の同性婚は既にいくつか例があるしな」


「さっき否定してた割にはノリノリじゃないですか」


「仕方ないだろう、アラサーにもなると若人の恋愛ってのは恐ろしく栄養価の高い完全食なんだ。ほら聞かせろ聞かせろ。言っとくけど白山はお前に人生の責任取らせる気満々だぞ」


「え、嘘!?」


「嘘だと思うか?」


「え、いやいや──」



 ……妥協案の割には、思ったより楽しかったかもしれない。

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