第46話「文化祭準備(その4)」
「ああ、消える……」
そう呟いてその場に倒れ込む甘神ちゃん。
「おい、起きろ。起きろってんだよ」
しかし一瞬の間を置いて扇子を握る彼女の手がふわりと浮かび、ポンポンと自らの頭を叩く。
すると再起動したかのように、再び甘神ちゃんは身体を起こした。
「どうした、あんたそんな顔して。悪い夢でも見たのかい?」
「そうなんだよ、おっかさん。死神が僕に蝋燭の火を移せと迫ってきたんだ」
「へえ、蝋燭。うちにあるようなやつかい?」
「そうそう。それをこんな感じで──あっっつッッッ!!!???」
「……とまあ先達の教え一つ、「夢の死神より現実のちびヤケドに気をつけろ」というところでこの度は失礼したいと思います。皆様、ありがとうございました」
茶道部に借りてきた畳の上で和メイド衣装を纏って正座し、軽く頭を下げる甘神ちゃん。
素人目線でも結構良い出来なんじゃないかとわたしはパチパチ拍手する。
「よっ甘神屋!」
「それは歌舞伎よ」
「いや〜、やっぱ死神が一番だわ。分かりやすいし演じやすいし、何よりバリエーション豊富!万人受けする最強演目ね〜」
「氷室先輩、阿須加先生ってもしかして」
「あ、そっすね。大学では江戸文学専攻してたみたいなこと聞いたことあります」
文化祭まで残り一週間を切った9月上旬。
我ら図書研究部の古本和カフェの準備は至って順調で、普通の校舎から少し離れていることもあって図書館には穏やかな空気が流れている。
まあ氷室先輩とNoMAちゃん先輩が上手いこと音頭を取ってくれたから、というのはかなりあるけど。
「……あら、もう冷蔵庫のジュース空っぽね」
「こちらの冷凍庫もです。三日前にはあれだけ溢れてたアイスが一本も残っておりません」
「あ、ならわたし黑谷ちゃんと買ってきますよ〜!お会計は後で割り勘ってことで!」
「マジすか。助かります」
「ついでに何か買ってきますか?駕籠野先輩」
「いや、大丈夫よ。強いて言えばのりしおポテチでもあったら最高ね」
「了解です。行こ、白山くん」
ということでバリ残暑漂うお外へ黑谷ちゃんと一緒にGO。
わたしは日傘を差す彼女にべったりくっつきながら炎天下アスファルトの上を歩いていた。
「黑谷ちゃん体温低くてきもち〜♡」
「でっっっか」
目的地は近所のスーパー。
冬ヶ丘生御用達のそこは案の定わたし達と同じような買い出し勢で賑わっていた。
「あ、モノクロだ!おは〜!」
「七夕さん?」
「アヤメちゃんおは〜。そっちも買い出し?」
「そーそー、ウチ文実の広報だし。せーちゃん達は図書研でしょ?和風メイド、めちゃくちゃ評判らしいじゃん」
「まあね〜。てかショート動画で踊らせるって案出したの誰?だいぶやってんなって感じだったけど」
「あれ?あれウチらの部門長。マジヤバいわあの人。ま、だいぶバズってるから来年もやろって話にはなってるけどさぁ」
「うわ……」
そんな感じで適当に話してからアヤメちゃんとは別れ、わたし達は買い物かごにじゃんじゃかアイスやら炭酸やらを放り込んでいく。
それから「この量が許されるのはピザパーティーだけだよな〜」なんて思いつつお会計を済ませ、仕上げに重たい荷物を黑谷ちゃんの異空間にぶち込めばミッション完了。
炎天下の帰り道、通り雨の中で頬張ったアイスの実がやたらめったらに甘かった。




