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麻雀JKクラブ!!  作者: はる
第二部 『頂上決戦への道』編
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36/78

第三十五話 ~二人目【堀部 孝子】(後編)~

『東一局』  親:『衿』  ドラ:『1』


【絵美の配牌】

五九九九①3567東北北中⑧


(第一戦を見てる限り、リーチの張り合いで勝てないことは、よくわかった)


 とりあえず絵美は孤立牌の「五」を捨てることにした。この形であれば①、⑧、字牌あたりを切り飛ばすのもありだが、絵美はこの局をアガリに行く気はなかったのである。




 三巡目、有効牌を引き入れた孝子が「七」を横向けると宣言した。


「行くよ! リーチ!!」


【孝子の手牌】

③③⑤⑤⑦⑦⑧77南南白白


 あまりにも早い先制リーチである。恐らく前局の良い流れを引き継いでいるのだろう。さすがにこの段階で待ちを特定出来ない絵美は、比較的安全そうな「9」を切ることにした。


 同巡、衿が捨てた「北」を見た絵美が宣言する。


「ポン!」


【絵美の手牌】

五九九九①②567東  北北北


 「北」は絵美の風牌ではあったが、安手による親流しを狙ったものではなかった。絵美の目的は、『孝子のツモをズラす』ことである。


(リーチ後、本来のツモ牌じゃなくなった場合……どうなる?)


 そこから四巡後の七巡目。引いてきた牌を叩きつけた孝子は宣言した。


「ツモ! リー、ヅモ、チートイツ……チェッ! 裏ドラは無しか! 三千二百、千六百!」


【孝子の最終手】

③③⑤⑤⑦⑦⑧77南南白白⑧


 裏ドラが乗らなかったことに納得が行かないのか、孝子は舌打ちした。その姿を見た絵美は、少なからず驚かされていた。


(とりあえずツモずらしは効果無し……か。大したツキだよ)


 絵美はすぐに気持ちを落ち着かせると、孝子のアガリ系と捨て牌に注目した。


(孝子さんは一巡目に「8」、二巡目に「6」、三巡目のリーチ宣言で「⑦」を切っている。いずれも手出しだったから、順子(数牌の並びのこと)や暗刻に目もくれずに、真っすぐ七対子に向かったってことか……)


 その選択は正しかったのだろう。だからこそツモアガリ出来たし、結果として最短のアガリだったとも言える。


(この人のツキの理由……偶然か勘かはわからないけど、アガリに向かって真っすぐルートを選べることにありそうだ……)


 麻雀におけるビギナーズラックとは、何も考えないことに起因することが多い。例えば先ほどの形であれば、少しでも麻雀を知ってる者なら、確率の高さを考えて順子に受けてみたり、四暗刻も考慮して暗刻を残したりするだろう。


 結果、裏目を引いて手を遅くしてしまうことが、ままあるのだ。


(けど真っすぐ来るだけなら、対処方法は……ある!)




 次の東二局、十一巡目に絵美がリーチをかけるも、実らず流局。孝子がノーテンだったため、親は流れ、次が東三局となる。崩した牌の山をかき混ぜながら、絵美は東二局の状況を振り返っていた。


(孝子さんが俺のリーチに手を回した様子はない。揃え方をミスっただけかもしれねぇけど、孝子さんにとっての不要牌に、俺のロン牌はなかったんだ……)


 誰かのリーチに対し、真っすぐ勝負に向かった場合、切られる牌は当然、アガリに向かう際の不要牌となる。絵美も同様に真っすぐ手を作ったため、「孝子が絵美のアガリ牌を掴む流れになかった」とも言える。


(この人を崩すためにはまず、『本来とは異なる牌の流れを作る』必要がありそうだな)


 絵美はここまで得られた情報を冷静に整理していた。熱血漢に見られる彼女ではあるが、その根本は『冷静な分析力』が支えていた。強気の行動は、分析の結果得られたものなのである。




【現在の点数】

絵美:23,900 衿:23,300 孝子:29,900 司:21,900


『東三局』  親:『司』  ドラ:『6』  リーチ棒:一本



(一生懸命考えちゃってまあ……)


 孝子は序盤からの絵美の視線に気づいていた。恐らく自分の打ち筋をじっくり見ることで、対応策を考えているのだろう。


(ああいう必死なところ見ると、昔の自分を思い出しちゃうんだよねぇ……)


 昔から孝子は、黄泉につっかかっていっては、負けてばかりだった。そのため、どうすれば勝てるのか色々考えて実践してきた。

 しかしその結果、本来の自分のフォームを崩し、結果、更なる惨敗を招くことになってしまったのだ。


(結局アタシの場合、考えすぎちゃダメだったんだよね。とにかく迷わず指が選んだ牌を切って手を進める。それが一番だって気づいたんだ)


 孝子のスタイルは、自身の経験から得られたものだった。確かに素人臭くは感じるかもしれないが、一切の迷いを断ち切った『完成されたフォーム』とも言えるのだ。



 四巡目、司が切った「中」に対し、孝子は「ポン」を宣言した。その二巡後、有効牌を引き入れた衿はテンパイに達していた。


【衿の手牌】

五五②③④⑥⑧12357東⑦



(本当は、手替わりさせたいところなんだけどね~)


 衿の手はテンパイはしてるものの、待ちはドラの「6」カンチャンという、決してよい待ちではなかった。その上、タンヤオもピンフもつかないリーチのみの手。つまり「アガリにくく」、「得点の低い」形なのである。


(開始前に絵美ちゃんに『テンパったら即リーして欲しい』って言われてるしねー。今回は行っちゃいましょうか!)


「リーチだよ!」


 衿は結局不要牌の「東」捨て、リーチを宣言した。その捨て牌を見た孝子が、宣言する。


「ポン!」


【孝子の手牌】

一①②③⑥⑧白白  東東東中中中



 孝子は不要牌の「一」を捨てたことで、「⑦」待ちテンパイとなった。待ちは悪いものの、ホンイツ、東、中でマンガン確定の手である。

 そのやり取りを見ながら、自分のツモ牌を引いてきた司は、どうすべきか考えていた。


【司の手牌】

一三八八⑦⑧⑨69東北北北7



(うーん、悩ましいっすねぇ……)


 勘が鋭い司は、孝子が先ほどのポンでテンパイしたことを感じ取っていた。とりあえず真っすぐ行って、フリコミそうな気配はないので、本来であればアガリに向かうところである。


(けど、開始前、絵美さんに頼まれちゃってるんすよねぇ……)


 司は、右手で頭をかきながら、対局前のやり取りを思い出していた。


     ★


「衿さんがリーチをしたら、自分がそれに打ち込むんすか?」


 司の復唱を受けて、絵美は両手を合わせながら頭を下げると、懇願するようなポーズを取った。


「頼む! 通しが禁止されている中、ピンポイントで仲間に差し込めそうなのは、この中では司くらいなんだ!」


 絵美の作戦はこうだった。まともな張り合いは分が悪いため、テンパイ合戦は味方の差し込みによって制しよう、ということだ。


「理屈はわからなくもないんすけど……衿さんの調子が悪かったり、自分がアガった方が良い場合もあると思うっすよ」

「それはそうだけど! こっちが迷っちゃいけないと思うんだ! それに衿さんなら、流れの有無に関わらず、ある程度手を作れると思うからさ!」


 衿の勝負強さについては、生徒達の中でも群を抜いている。絵美の作戦を実行するなら、確かにこのメンバーがベストだろう。しかし司はまだ納得できないようだった。


「そうなるとたぶん、衿さんの『ロン』と孝子さんの『ツモ』合戦になると思うっす。それだと得点的に不利だと思うっすよ」


 ツモはそれ自体の役や、全員から点棒を取れるため、基本的にロンより点数が高くなることが多い。同じ回数ずつアガったと仮定した場合、司の言う通り、得点差で負けてしまうことになるだろう。


「そこは俺がなんとかする! たぶん後半になると思うけど、勝負所で孝子さんから直撃さえ取れれば、流れは一気にこっちに傾くはずなんだ!」


 懸命に頼む絵美の姿に、司はため息をつくと、そのまま頷いた。


「……わかったっす。絵美さんを信じるっすよ。とりあえず自分は衿さんがトップでない限り、ハコテンにならない程度に打ち込むことにするっす」


「すまない、恩に切るよ!! それともう一つだけ頼みがあるんだけど……」


 絵美は司と衿を呼び寄せ、「願い事」を伝えた。二人は一瞬顔を見合わせたが、とりあえず頷いてくれたようだった。


     ★


 司は目を閉じると、全神経を鋭く研ぎ澄ました。自身の直感により選ばれた「6」を河へと置いた。


「ロンッ! リーチ一発ドラ一で、三千九百点だよ!」


【衿の最終手】

五五②③④⑥⑦⑧12357



 点棒を渡す様子を見ていた孝子は、顎に手を当て、その狙いを考えていた。



(さすがにリーチ一発目で、ドラは切らないよねぇ。しかも司ちゃんは親だし……。明らかに何かの作戦ってことか……)


 孝子は実らなかった手牌を崩しながら、ため息をついた。


(まあいいさ。どうせアタシがやることは変わらない。最後まで自分のスタイルを貫くだけさ!)




 その後、司の読み通り、場は衿の『ロン』と、孝子の『ツモ』による戦いになった。孝子も毎回リーチをかけられたわけではなかったが、司も毎回一発で差し込めたわけではなかったので、持ち点の差が徐々に生じ始める。


 南四局のオーラスを迎えた時、各自の点数は以下のようになっていた。



【現在の点数】

絵美:20,900 衿:32,200 孝子:41,800 司:5,100


『南四局』  親:『絵美』  ドラ:『4』


【絵美の配牌】

六八①④445567白中中⑤



(サンキュー、司に衿さん。孝子さんとの点数は射程圏に留まってはいるし、二人の派手なやりあいのおかげで、自分の存在を目立たなくすることも出来たよ)


 何よりラス親で、この点差と手牌である。絵美が仕掛けるなら、ここしかなかった。


(漠然と手を作っちゃダメだ。最終系を想定して待ちを絞るんだ……)


 この形、普通に考えれば「④⑤⑥」、「456」辺りのメンツができやすいだろう。逆にいえば、「六八」辺りでメンツは構成されにくい。意を決した絵美は、第一打にドラの「4」を切ることにした。


(ふーん、中々面白いじゃない)


 第一ツモを引いてきた孝子は、絵美の初手ドラ切りについて考えていた。当然ここはアガリには来るだろうが、いきなりドラを切らなければならないあたり、あまり手格好は良くないのだろう。


【孝子の配牌】

二四五⑥⑧⑧35677発中二



(アタシのこの形……とりあえずファンパイは無視してよさそうだ。順子の流れが強いから、最終的にはマンズかソーズ待ちになりそうだね)


 そう感じた孝子は、第一打に「中」を切ることにした。これは絵美のポン可能牌だが、これを絵美はあえてスルーする。


(普通に考えれば、俺の手は中ドラドラが濃厚……。けど、あえてその逆を行く!!)


 ポンの声を飲み込んだ絵美は、必死に高ぶる感情を抑え込んでいた。




 そして十一巡目、有効牌を引き入れた絵美はテンパイに至っていた。


(……来たぜ。待ちに待ったこの形が!)


【絵美の手牌】

五五六七八八④⑤45567③



「リーチ!」


 絵美は迷わず不要牌の「八」を掴むと、そのままリーチを宣言した。その様子を見ていた司が、自身の手牌へと視線を落とす。


【司の手牌】

八八③④⑤44東東東北北北



(絵美さんのリーチ。一応予定通りっすけど……)


 ちなみこの「八」は、司のアガリ牌だった。逆転できずに終了してしまうため、当然ロンアガリの選択肢はない。


 誰も反応しないのを見て、次の順番である衿が、自分のツモ牌を引いた。


【衿の手牌】

一一五六七②③④⑥⑦123②



 実は衿も、三巡前からテンパイしていたのだが、意図的にリーチをかけないでいた。それは絵美が司と衿に「オーラスはテンパッてもリーチをかけないでほしい」と頼まれていたからである。


(まあ、リーチピンフしかないこの状態だと、リーチはかけ辛いんだけどね~)


 衿はさして気にする様子もなく、不要牌の「②」を選んで切った。孝子が真っすぐ手を進めてリーチをかけようとしているなら、まだテンパイしていないと思われるからである。



 それから二巡後、有効牌を引き入れた孝子が、テンパイへと達していた。


【孝子の手牌】

三四五⑥⑥⑧⑧⑧356778


(まさに予定通りの形だ。これはもらったね)


 孝子はここまでの流れから、自分の余り牌がロン牌にならないことを感じていた。事実、その読みは正しかったのだが……。


「さあ、これで最後だ。決着をつけるとしようか!」


 意を決した孝子が、不要牌の「3」を切り、リーチを宣言しようとした。しかしその直後、絵美が手牌をゆっくりと前に倒す。


「悪いな孝子さん……その牌だ! リーチ、ピンフ、タンヤオ、ドラ一で、一万一千六百!!」


【絵美の最終手】

五五六七八③④⑤45567



「……なっ!?」


 孝子は驚きの余り、立ち上がっていた。自分の余剰牌が、絵美のロン牌になったことが、信じられないようだ。


「この局、普通にやってりゃこの形のアガリはなかった。もしかしたら、他の誰かがアガってたかもしれねぇ。それでも俺は……この局に賭けたんだ」


 絵美のラス親とは言え、通常のアガリではそのまま対局が続行される。司や衿にしても、中途半端なアガリでは、むしろ自分達の負けを確定させてしまう。


 そういう意味では、本来この局は孝子のモノであったかもしれない。しかし絵美は、「あえて逆を行く」ことで見事にひっくり返したのだ。


「なるほど。アタシの余剰牌を読み切ったのか」


 孝子は、絵美が切った第一打の「4」の意味をそこで知った。少しでも点数が欲しいこの場で、メンツの出来ているドラを落とす行為は本来愚行と言える。

 

 しかし、孝子がアガリに真っすぐ向かうのであれば、「最後にアガリになりえない場所」を切ってくるはず――。絵美はそこに着目し、孝子の余り牌に待ちを合わせたのだ。


「アタシの負けだよ」


【各自の最終点数】

絵美:32,500 衿:32,200 孝子:30,200 司:5,100



 絵美は最後の一撃で、孝子をまくってトップになっていた。絵美は大きく息を吸うと、そのままゆっくりと吐き出した。


 こうして特別練習第ニ戦も、生徒達の勝利で幕を閉じたのだった。

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