探索者の嗜み
新たなスキルツリーに付属したスキル"恵みの手"。
スキルに意識を向けてみると、その効果は作物の成長促進や品質向上といった一見地味なものだった。
その効果の検証は後で当然やるとして、僕はまずそもそものこのスキルツリー自体についての考察をしてみた。
この作物の育成に効果を発揮する恵みの手はあくまでスキルツリー"二足の草鞋"のスキルだ。
もし恵みの手がスキルツリーとして出てきたのなら、それは今後作物に関係する様々なスキルを獲得していくと予想ができるが、そうではないのだ。
つまり恵みの手自体は今後の成長としては熟練度の上昇だけで、おそらく育成速度や効果範囲などの純粋な出力の強化になるだろう。
ではこのスキルツリーの成長の方はどうだろうか。
作物育成に関するスキルがあくまでこのスキルツリーに付属したスキルとして獲得したものであるなら、このスキルツリーが次に獲得するスキルはどのようなものになるのだろう。
冒険ガイドに対しての二足目の草鞋というならもう追加のスキルはない?
これはなんとなく違う気がする。
獲得したスキルの効果が意識を向けるとわかる時のように、いやそれよりは漠然とした感覚ではあるが、この二足というのは単なる比喩で実際には主たる冒険に対しての別の生き方といった意味合いのように感じるのだ。
つまり、最初のスキルツリーを冒険・戦闘系として、恵みの手が農業系なら他にも工業系や商業系のスキルがこのスキルツリー配下にある、とも考えられるのではないだろうか。
そう考えると恵みの手は少し地味なスキルにも感じられるが、俄然この新たなスキルツリーの成長が楽しみになってくる。
まあ、ひとまずその楽しみは今後にとっておくとして、まずはこの新しいスキルを使ってみることにしよう。
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魔物素材の利用やその研究による新技術の発明により、特異かつ最先端の発展を遂げているダンジョン都市であるが、食べ物に関してはそれらほど目を見張るような発展はない。
食べ物関連の技術として代表的なのは手早く効率よく栄養を補給できる完全栄養食などであるが、むしろそれよりも"本物"の食べ物の方が尊ばれる傾向にある。
完全栄養食は完全という名前の通り生きていくだけならそれだけで充分だし、地価や物価など生きていくのに必要なものだけでも高くつくダンジョン都市の中では破格の値段で手に入る。
それだけに、技術の結晶たる完全栄養食ではなく従来の食べ物を食べられるというのはある種の余裕、富の証であり、ある程度成功してる探索者か、ダンジョン都市で探索者以外で生計を立てられている高給取りの証なのだ。
また、味も不味くはなくどちらかといえば美味しいよりではあるが、パサパサというかモサモサというかなんとも言えない独特の食感と、限られたフレーバーによるマンネリ感、もっといえば別のフレーバーを食べてもどこか同じように感じる隠しきれないその共通の味は、それだけを食べていると人間性が僅かずつ削ぎ落とされているような錯覚さえ覚える。
とはいえ、別に自家栽培が禁じられているディストピアというわけでもない。
自室の植木鉢などの小さな範囲で、かつ探索者としての日々の生活の隙間時間で育てられる程度の植物の育成は、ある種探索者の嗜みでもあった。
ただし、当然普通にその野菜を買うより種や苗を買う方がはるかに多くのお金が必要になる。
しかも売る側もこちらの事情は当然知っているため強気の値段をつけている。
その日食べられる野菜への誘惑を断ち切り、その先の日々への投資ができる探索者のみに許された嗜みではあった。
例に漏れず僕もこのダンジョン都市に来てから三日目には栄養食だけの食事にうんざりし、悩みに悩んだ結果、まだ来てから間もないからこそ有効な投資になると判断して、生活の彩りのために貯蓄を切り崩したのは良い判断だったと今でも思う。
そんな涙ぐましい努力の証たるラディッシュの植木鉢に対して、僕は今日新たに獲得したスキルの発動を試みた。
「恵みの手、発動!」
それから数日後、スキルを使う前の予定より早く収穫できたラディッシュの大きさと味に満足しながら、僕は上機嫌にこのスキルについて思いを巡らせていた。
種取りも本来より早くできるのか、種の量も増えるのか、発芽もさせやすくなるなら種をわざわざ買わなくとも今からトマトでも買ってこようか。
自分が食べる量以上に確保できたらお裾分け、いや売るのだってありだ。
だが店を持たずに売るなら誰にでも売れるわけじゃない。
探索者としてはぼちぼち交流を保って積極的な交流は一人での探索だと苦しくなってからにしようと考えていたが、野菜を売りつける相手を探すために今から積極的に交流を目指した方が良いのかも知れない。
このスキル次第ではいずれお金を貯めて自分の店を持つ、というのも選択肢としてはありか。
そんなことを考えながら、まずは食用のトマトを買ってそこから種を取って育ててみよう、と買い物をしに街へと繰り出すのだった。




