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『【農具箱】で最強スローライフ!〜ハズレスキルと現代農業知識を合わせたら、厄災も魔王軍もスコップ一つで定時退社できました〜』  作者: 月神世一


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EP 4

元魔将軍の過去と、サウナ後のイモッカ

朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みながら、俺はふかふかの黒土に鍬を入れた。

「よし、このうねのpH値も保水力も完璧だ。スアイ、太陽芋の種芋を頼む!」

「任せて。……ふふっ、本当にいい土ね」

俺が【UR鍬】で瞬時に最高の団粒構造へと作り変えた畑に、スアイが等間隔で太陽芋の種芋を植えていく。タローマン製のデニムオーバーオールに身を包んだ彼女は、泥で顔を汚すことも厭わず、本当に楽しそうに笑っていた。

種を植え終えると、スアイがそっと土に手をかざす。

淡い冷気が土の表面を這うように広がった。

「なるほど、氷魔法で地温を微調整してるのか。ただ冷やすんじゃなくて、種芋が発芽しやすい適温ギリギリでキープする……すげぇな、ビニールハウスの温度管理システムを魔力で完全に再現してるようなもんだ!」

「ふふん、伊達に氷を操ってないわよ。あんたの作った最高の土と私の魔法があれば、最高の太陽芋が育つわ」

得意げに笑うスアイに、俺は感心しきりだった。魔力を破壊ではなく、発芽促進のための精密な温度管理に使うとは。農業オタクとしては最高のパートナーである。

「おーい、お前ら。熱中すんのはいいが、ほどほどにしとけよー」

縁側から間延びした声が聞こえた。

見れば、最強の用心棒であるはずのリンが、ハンモックに揺られながら『エンジェルすまーとふぉん』をいじり、不正通販でポチった地球のポテトチップスをボリボリと貪っていた。完全にニートの休日である。

「お前も手伝えよ……と言いたいところだが、まぁいい。今の俺は、誰かに急かされることも、理不尽なノルマを押し付けられることもないんだからな」

自分のペースで土と触れ合い、命を育てる。これこそが、俺が前世で夢見ていた真の農業スローライフだ。

太陽が西へ傾き、影が長くなってきた頃合い。

「よし、17時だ! 本日の農作業は定時で終了!」

俺が鍬を肩に担いで宣言すると、スアイも土を払いながら立ち上がった。

「お疲れ様。それじゃあハルト、汗を流しにいきましょうか。私の『特製サウナ』が温まってるわよ」

「おっ、待ってました!」

スアイがこの家の裏に自作(DIY)したというサウナ小屋は、木材を精巧に組み上げた本格的なログハウス仕様だった。

小屋の中央には魔力で熱を放つ焼石サウナストーンが積まれており、そこへスアイが水をかけてロウリュを行う。ジュワァァァッ!という音と共に、熱い蒸気が小屋の中に充満した。

「くぅぅっ……! 効くぜ……!」

俺とスアイはサウナ着(厚手のポンチョのようなもの)を着た状態で並んで座り、じっくりと汗を流していた。労働の後のサウナは、社畜時代に溜まりに溜まった毒素まで抜け出ていくような心地よさがある。

「……ねぇ、ハルト」

熱気の中、スアイがぽつりと口を開いた。

「私ね、前はアバロン魔皇国で『氷魔将軍』なんて偉そうな肩書きを背負ってたのよ」

「あぁ、初日に言ってたな。魔王軍ってやつだろ?」

「そう。でもね……軍の上層部っていうか、天界の設定とかいうふざけた理由でね。私に『極寒の戦場にビキニアーマーで行け』って強要してきたのよ」

スアイの顔に、怒りと呆れが入り混じった表情が浮かぶ。

「信じられる? 氷と雪が吹き荒れるマイナス何十度の戦場で、防御力ゼロのビキニよ? 意味のないエロスと色気を混同した、ただのセクハラとパワハラじゃない! 私が『露出の高い防具を着る必要性を論理的に説明しろ』って言ったら、言葉を濁すのよ!」

「うわぁ……それは完全なブラック企業だな。用途に合わない機材を現場に押し付けて、責任だけ取らせるクソ上層部の典型だ」

「でしょ!? だから私、辞表を叩きつけて、タローマンでこのオーバーオールを買って、ここに逃げてきたの」

スアイは自嘲するように笑った。

「将軍の地位を捨てて逃げ出した落伍者よ。……呆れた?」

彼女の瞳が、少しだけ不安そうに揺れていた。

俺は首を横に振り、きっぱりと言い切った。

「呆れるもんか。大正解の判断だよ。理不尽な労働環境から逃げるのは『逃亡』じゃなくて『生存戦略』だ」

「生存、戦略……」

「ああ。俺は前世で逃げ切れずに、会社のデスクでキャベツのデータを打ち込みながら過労死したからな。自分の誇りと尊厳を守るために、クソみたいな環境を切り捨てたお前は偉いよ。俺は心から尊敬する」

俺の言葉に、スアイは一瞬目を丸くし……やがて、パッと花が咲いたように微笑んだ。

「……ふふっ、ありがとう。ハルトにそう言ってもらえると、すごく救われるわ」

熱気のせいだけではない。少しだけ頬を朱に染めた彼女の笑顔は、ビキニアーマーなんかに頼らなくても、眩しいほどに魅力的だった。

     * * *

「「かんぱーい!!」」

サウナを出て、冷水風呂(スアイの氷魔法でキンキンに冷えている)で完璧に「整った」俺たちは、縁側でグラスを合わせていた。

グラスに入っているのは、太陽芋からドワーフの蒸留技術で作られたという庶民の銘酒『イモッカ』。芋焼酎の芳醇な香りと、ウォッカのキレのある喉越しを併せ持つ度数40度の酒を、魔導炭酸水で割った特製ソーダ割りだ。

「くはぁぁぁっ! 五臓六腑に染み渡る! 労働(定時内)の後の酒は最高だな!」

「ほんと、自分で育てた土の上で飲むお酒は格別ね!」

俺とスアイが笑い合っていると、ハンモックから降りてきたリンが「おい、俺にもよこせ」とグラスを突き出してきた。

「お前は一日中寝てただけだろ。まぁいい、今日は気分がいいからな。飲め」

リンのグラスにもイモッカを注ぎ、三人で穏やかな夜の風を浴びる。

最高だ。ここが俺の求めていた、真のホワイトな居場所なんだ。

そんな、完璧なスローライフの夜を満喫していた時のことだった。

ガサッ……ガサガサッ……!

ふと、村の境界線にある森の奥から、多数の不穏な足音が聞こえてきた。

「ん? リン、今の音……」

俺がグラスを置くと、リンは気怠げに視線を森へ向けた。

「あぁ。なんか小せえ害獣ゴブリンの群れが、こっちの畑に向かってゾロゾロ近づいてきてるな。……どうする? 俺が雷でサクッと消し炭にしてやろうか?」

明日は待ちに待った完全休業日だ。

俺は立ち上がり、縁側に置いてあった【URジョウロ】を手に取った。

「いや、いい。明日は休日だ。俺のホワイト農場(休日)を荒らす害虫は、問答無用で肥料にする」

お読みいただきありがとうございます!


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