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『【農具箱】で最強スローライフ!〜ハズレスキルと現代農業知識を合わせたら、厄災も魔王軍もスコップ一つで定時退社できました〜』  作者: 月神世一


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EP 5

天界マネーと【UR農具】で作る、チートビニールハウス

「リン。例の『投げ銭』の残高、今いくらになってる?」

「あ? えーと、冒険者ギルドの口座と連動してるデータだと……金貨換算で一万二百枚だな。お前の口座、完全に天界の富豪レベルだぜ」

ポポロ村の心地よい朝。

縁側でポポロコーヒーを啜りながら、俺はリンが操作する『エンジェルすまーとふぉん』の画面を覗き込んだ。

第一章の死蟲機防衛戦で、俺の「定時退社・害虫駆除」というシュールな戦いぶりが神界のゴッドチューブで大バズりし、炎上神ワイズのリスナーからの投げ銭がすべて俺の口座に振り込まれた結果だ。

金貨一万枚。日本円にして約一億円。農家としては一生遊んで暮らせる額だが、俺の目的は金持ちになることではない。「最高のホワイト農場を作ること」だ。

「よし、予算は十分だ。リン、昨日リストアップしておいた資材、お前の不正通販で全部ポチってくれ」

「おう。地球の農業用特殊ビニールシート百メートル分、超硬質アルミパイプ五百本、温度センサー、魔導ヒーター、あとは……『イチゴ』の種だな? まるっと注文完了だ。五分で届くぜ」

リンが画面をタップすると、村の広場に空間の歪みが発生し、巨大な段ボール箱やパイプの束が次々と吐き出された。

「よーし、おっぱじめるぞ。スアイ、キャルル、手伝ってくれ!」

「任せて!」

「おやつ作りに関わることなら、労力は惜しまないわよ!」

タローマンの作業着姿のスアイと、パーカーに安全靴のキャルルが気合十分に返事をする。

俺たちがこれから作るのは、農業の究極のロマン――天候や季節、異世界の理不尽な魔力環境に一切左右されない『チート・ビニールハウス』である。

これで、キャルルが狂信的に求める「甘いお菓子スイーツ」の素材を、一年中安定して栽培できるようになるのだ。

まずは基礎工事だ。

俺は【URスコップ】を構え、広場の一角にある荒れ地に向かって駆け出した。

「俺が『平らな土地』だと思えば、ここは整地された最高の土台だ!」

ズガガガガガッ!

スコップを地面に軽く突き立てて水平に薙ぐだけで、起伏の激しかった荒れ地が一瞬にしてコンクリートの土間のように平らに整地される。URの理不尽判定により、地固めローラーも重機も不要だ。

「次は骨組み(パイプ)だ! キャルル、リンが組み立てたパイプを地面に打ち込んでくれ!」

「了解! 『月影流・安全靴スタンプ』!」

キャルルが特注の安全靴でアルミパイプの頂部を蹴りつけると、ドスッ!という音と共にパイプが寸分違わぬ深さまで地面に突き刺さる。元近衛騎士隊長候補の超絶脚力が、ただの杭打ち機として完璧に機能していた。

骨組みが完成すると、次は巨大なビニールシートの展張だ。

「スアイ、風の魔法でシートを浮かせてくれ!」

「ええ! 『ウインド・フロート』!」

スアイの繊細な魔法操作により、巨大なシートが骨組みの上にふわりと被さる。俺が【UR鎌】で余分なシートを『雑草(不要なもの)』としてスパッと切り落とし、ピンと張って固定していく。

「よし、外装は完成だ。次は内部の環境制御!」

俺たちは完成した巨大なビニールハウスの中に入った。

「スアイ、ハウスの四隅に氷の魔石を置いて、冷気の循環回路を作ってくれ。俺は中央に魔導ヒーターを設置する」

「なるほどね。私の冷気とヒーターの熱を空調代わりに使って、一年中『春』の温度を維持するのね。ハルトの知識と私の魔法のハイブリッドってわけだわ!」

スアイが嬉しそうに冷気回路を組み上げていく。農業に理解のある元魔将軍、マジで優秀すぎる。

わずか一時間足らず。

天界の富と地球の資材、元魔将軍の魔法制御と元姫君の暴力的な脚力、そして俺のUR農具をフル動員した結果、ポポロ村に全長五十メートルに及ぶ『絶対環境制御型・チートビニールハウス』が爆誕した。

「すごい……! ハウスの中、ポカポカしてて息がしやすいわ!」

キャルルがハウスの中でウサギの耳を揺らしながらクルクルと回る。

「土壌のpH値も、温度も湿度も、俺が完全に管理できる。ここは自然災害も、魔物の襲撃も、酸の雨も届かない、究極のホワイト空間だ」

俺は満足げに頷き、買っておいたプランターに極上のふかふか土を敷き詰めた。

「さぁ、本番はここからだ。キャルルのための『苺』を育てるぞ」

俺は丁寧に苺の種を蒔き、【URジョウロ】を取り出した。

――『URジョウロ:所有者が散布したいと念じた液体を、最適な濃度と範囲で無限に散布可能』

俺が念じたのは、植物の細胞分裂を加速させる『超濃縮成長促進剤』と、果実の糖度を極限まで引き上げる『甘味ブースト液』だ。

爆速成長グロウ・アップ!」

ジョウロから散布された淡いピンク色のミストが土に染み込むと、種は瞬く間に芽を出し、葉を広げ、白い花を咲かせた。

そして、ほんの数分のうちに、大粒の真っ赤な果実が鈴なりに実ったのだ。

だが、そこはやはり異世界の狂気野菜。ただの苺では終わらない。

「……ねぇハルト。この苺、なんかプルプル震えてない?」

キャルルが不思議そうに苺を指差す。

その苺は、俺たちが見つめると、まるで恥じらう乙女のように身を捩り、表面の赤みがどんどん濃く、ルビーのように深みを増していったのだ。

「あぁ、こいつは異世界品種の『赤面せきめんベリー』だ。人に見つめられて恥ずかしがれば恥ずかしがるほど、果肉に糖分が凝縮されて信じられないほど甘くなるっていう、変態的な性質を持った苺らしい」

「へ、変態的な苺……!?」

「ほら、みんなでジッと見つめてやれ。照れさせて甘くするんだ」

俺、スアイ、キャルル、そしてリンの四人で、プランターの苺を無言でガン見する。

『プルルルルルッ……!』

赤面ベリーは四方向からの熱視線に耐えきれなくなったのか、極限まで真っ赤に染まり、やがてプシュッと甘い香りの湯気を噴き出して「完熟」の合図を出した。

「よし、収穫だ!」

俺は真っ赤に染まった赤面ベリーを摘み取り、キャルルに手渡した。

「食べてみろ」

「う、うん……! いただきます!」

キャルルが大きな苺をパクリと頬張る。

その瞬間。

「〜〜〜〜〜ッ!!!」

キャルルのウサギ耳がロケットのようにピンと直立し、顔全体が苺に負けないくらい真っ赤に染まった。

「あまっ……! なにこれ、すっごく甘い!! 果汁がジュワッて溢れて、まるで最初から中に練乳が詰まってるみたい! 酸味も爽やかで、いくらでも食べられちゃうわ!」

キャルルは感動のあまり涙ぐみ、次々と赤面ベリーを口に運んでいく。

「ふふっ、大成功ね。ハルト、これでいつでも極上のスイーツが作れるわね」

スアイが俺の肩をポンと叩き、満足そうに笑った。

「ああ。今日はこの苺を使って、特大のショートケーキと苺パフェを作ろう。夕方には仕事を切り上げて、みんなでティータイムだ」

「ショートケーキ! パフェ!」

キャルルが両手を握りしめ、俺の目の前にズイッと顔を近づけてきた。

「ハルト……あなた、やっぱり私の運命の専属パティシエよ! もう、一生私のそばでお菓子を作り続けなさい!」

「いや、俺は農家だぞ。パティシエじゃない」

「同じことよ! あぁ、心音がドキドキしてる……私、ハルトの作るお菓子のために、この村を絶対に守り抜くって決めたわ!」

キャルルは人参柄のハンカチで口元の果汁を拭いながら、ヤンデレ一歩手前の重たい笑顔を向けた。

俺は「お手柔らかに頼むよ……」と苦笑いしながら、豊作の苺を収穫し続けた。

     * * *

その日の夕方。

ビニールハウスの完成と、極上の苺スイーツ(ケーキとパフェ)の恩恵にあずかったのは、俺たちだけではなかった。

「……おいワレ。これ、マジで美味いな。あのウサギの嬢ちゃんが独り占めしたがる気持ちもわかるわ」

村の境界線にある切り株の上で。

黒焦げのアルマーニを着た極道邪神デュアダロスが、俺がタッパーに入れて渡した『赤面ベリーのショートケーキ』を、ヤクザらしからぬお上品な手つきでフォークで崩し、美味そうに頬張っていた。

「甘えモン食うと、シャバの空気が沁みるのぅ……。おう、そこを通る角ウサギ! ここは俺のシマやぞ! 散歩するなら通行料(ショバ代)置いてかんかい!」

ポポロ村のホワイト農場に、一年中お菓子を作れる『チートビニールハウス』という新たな名物が誕生した。

そして、極道邪神という便利すぎるパシリ(防犯カメラ)のおかげで、俺の定時退社ライフは、より一層の盤石さを増しつつあった。

だが、この時の俺は気づいていなかった。

キャルルの過去――レオンハート獣人王国の『ブラックな労働環境』と『暗部』の影が、すぐそこまで迫っていることに。

「まぁ、今日はショートケーキが上手く焼けたから、よしとするか」

俺は温かいコーヒーを啜りながら、平和な村の夕焼けを静かに眺めていた。

読んでいただきありがとうございます。

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