表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KILARe:  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/36

第27話

 ワコトの叫びが轟いた。

「第三試合を始める。組み合わせは、クラノ班のクラノ対荒野の国ラント」

 その名を聞いた瞬間、ギャラリーから低いざわめきが漏れた。

 クラノ――新日本国の天才侍、風を操る気光の使い手。

 その対するラントは、荒野の国から来た巨漢――獣王の血を引く戦士だった。

 互いの国境で幾度も血を流した宿敵国同士。

 この対決は、単なる試験などではない――七つのプライドのぶつかり合いだった。

 クラノはギャラリーから迷いなく飛び降りた。

 体が弧を描き、風を纏うように柔らかく着地した。

 砂地に足裏が触れる瞬間、わずかな土煙が舞い上がり、彼の周囲に青白い気光の残滓が広がった。

 対するラントは、山を崩すような勢いで飛び降りた。

 身長二メートルを超える巨躯が砂地に激突した。

 ドン!

 大地を震わせる衝撃音が響き渡り、砂粒が雨のように飛び散った。

 ラントの片手には、身長ほどもある巨大な大剣が握られ、刃の重みが空気を引き裂くように唸りを上げた。

 荒野の砂嵐を思わせる日焼けした肌に、鎖帷子の鎧が張りつき、肩の筋肉がうねるように膨張していた。

 ラントの唇が獣のように引き結ばれ、瞳には野性の輝き。

 新日本国を叩き潰すという執念が宿っていた。

 二人はゆっくりと歩を進め、場の中央へと向かった。

 ワコトを挟み、互いの手が届く距離。

 息遣いが混じり合い、緊張の熱気が空気を歪めた。

 クラノの指先が無意識に刀の柄を撫で、ラントの握力が大剣の革巻きを軋ませた。

 ワコトが口を開こうとしたその瞬間。

 ゴツン!

 鈍く重い衝撃音が場を震わせた。

 二人の額が正面から激しくぶつかり合った。

 頭突きの衝撃が雷鳴のように周囲の空気を震わせ、砂地に小さな窪みを刻んだ。

 クラノの視界が一瞬白く閃き、ラントの巨体がわずかに揺らぐ。

 額同士がぶつかった痛みが火のように熱く広がり、二人は互いの顔を睨みつけた。

 ワコトは呆れたようにため息をつき、両手を腰に当てた。

「はぁ……お前ら、まだ始めんなよ」

 クラノはラントを睨みつけた。

「お前が先に引けよ、蛮族」

 ラントは巨体を揺らし、鼻息を荒く吐いた。

「我らに退却の二文字無し! 侍など、砂嵐に吹き飛ばしてやる!」

 その言葉を合図に、二人は再び額をぶつけ合おうとした。

 ゴン! ガン!

 二つの鈍い音がほぼ同時に響き渡った。

 クラノの頭に、コタロウの巨大な拳が落ち、ラントの頭には担当師範である女忍者のよこてチヅキの鉄拳が炸裂した。

 コタロウの拳は岩のように重く、クラノの視界を星屑のように散らした。

 チヅキの拳はラントの頭蓋を震わせ、巨漢の膝をわずかに折れさせた。

「っほら、迷惑かけるな!」

 コタロウはクラノの襟首を鷲掴みにした。

 巨体が彼を軽々と持ち上げ、白線まで引きずるように連れていった。

 クラノは足をばたつかせ、悔しげに歯を食いしばった。

「師範、放せよ! 自分で歩ける!」

 一方、チヅキは無表情のままラントの襟を掴み、白線まで運んだ。

「おとなしくルールを守れ。守れないなら今日のおやつは抜きだ」

 ラントは巨体をよじり、唸るように抗議したが、チヅキの指圧一つで動きを封じられた。

 ワコトは深く息を吐き、空気を切り裂くように声を張った。

「それでは、第三試合を始める。殺しは無し。戦闘不能とみなした場合、強制的に負けとする。――初め!」

 刹那、二人の声が重なり、轟いた。

「なかごクラノ! 切り伏せる!」

「まずるラント! 叩き潰す!」

 二人は獣のように砂地を蹴り、中心を目指して走り寄った。

 クラノの足捌きは滑らかで、刀が鞘の中で低く唸った。

 ラントの巨足は大地を震わせ、大剣の重みが空気を引きずった。

 二人の距離が縮まるにつれ、砂粒が渦を巻き、緊張の熱気が覆った。

「お望み通り切り刻んでやるよ!」

 クラノがまず技を放った。

 息を吸い込み、胆力を刀身に集中させた。

 青白い輝きが渦巻き、刀の周囲を包んだ。

「――侍刀技『剛気斬』!」

 刀が抜かれ、弧を描いてラントの肩を狙った。

 鋭い音が響き、気光の粒子が砂地を照らした。

 ラントは巨体をわずかに傾け、大剣を振り上げた。

「汝の技、存分に食らいつくしてくれよう!」

 大剣が振り下ろされ、重力を纏った一撃がクラノの刀に激突した。

 ガキン!

 金属の悲鳴が響き渡り、衝撃波が砂を巻き上げ、二人の体を互いに弾き返した。

 クラノの腕が痺れ、足が砂に沈んだ。

「ぐっ……重い」

 ラントの膂力は想像以上のものだった。

「こんなものか! 小童!」

 巨漢の唇が満足げに歪んだ。

 クラノは歯を食いしばり、即座に次の技を繰り出した。

 息を整え、気光を風の渦に変えた。

「――侍刀技『操気斬』!」

 風の刃が無数の弧を描いてラントに襲い掛かった。

 不規則に揺らめく気光の粒子が砂地を切り裂き、ラントの鎧を掠めた。

 シャリシャリと金属を削る音が響き、荒野の戦士の肩に浅い傷が刻まれた。

 ラントは大剣を横薙ぎに振り、風の刃をいくらか切り伏せた。

 しかし、数本の風刃が鎧の隙間をすり抜け、肌を浅く裂いた。

「ぐぬぅ……なんという手数」

 ラントの巨体がわずかによろめいた。

 だが、彼は止まらなかった。

 無理やり前進し、砂を蹴散らしながら咆哮を上げた。

「だが、この程度ただのそよ風だ!」

「蛮族がよぉ!」

 剣戟が数閃にわたり結ばれた。

 クラノの刀が風を纏い、素早い連撃を浴びせた。

「逃がさねぇぞ! このまま沈めてやる!」

 ラントの大剣は重く鈍く振り下ろされ、クラノの防御を崩そうとした。

「軽い!」

 その膂力から、クラノの足が徐々に後退を強いられた。

 腕の筋肉が悲鳴を上げ、刀の柄に汗が染みた。

 ラントの笑いが獣のように低く響いた。

 巨体が前進し、大剣を振り回した。

「軟弱だ、実に軟弱!」

 クラノは息を吸い込み、胆力を極限まで練り上げた。

 輝きが刀身に集中し、青白い渦が爆発的に膨張した。

「まだ本気じゃねえよ! くらえ!」

「――侍刀技『風纏』!」

 クラノの刀を猛烈な風が纏い始めた。

 気光が竜巻のように回転し、刀身を包み込んだ。

 一撃ごとに風圧がラントの鎧を押し返し、返す刀で巨漢の肩を切りつけた。

 シャキン!

 鋭い音が響き、ラントの鎧に深い亀裂が入った。

「ぐおっ……威力が……増している!」

 次の瞬間、ギャラリーから歓声が沸き起こった。

「すげえ、クラノ!」

「あの巨漢を押してるぞ!」

 ギャラリーで、キラリは手すりを握りしめた。

 クラノの剣筋――あの苛立ちの裏に純粋な技量が光った。

「なんて攻撃の応酬だ……クラノ、頑張れ……!」

 トモエは腕を組み、目を細めて砂地を睨んだ。

「お互い鬱憤が溜まってたんだろうな。剣筋から焦りを感じる――意外と決着は速いかもしれないぜ」

 クラノは一瞬距離を取った。

 胆力を刀の先端に集中させ、気光を鋭く凝縮した。

 風の粒子が針のように細く、しかし無数に渦巻いた。

「くらえ! 新技だ!」

「――侍刀技『風迅撃(ふうじんげき)』!」

 刀の先端を風の刃が覆い尽くした。

 気光が延長されたリーチを生み、切れ味を極限まで増幅した。

 鞭のようにしなる刀身がラントの顔めがけて突きを放った。

 風の唸りが空気を裂いた。

 クラノは一瞬で間合いを詰め、巨漢の喉元を狙った。

 ワコトの目が見開き、即座に割って入ろうとした。

「まずいっ!」

 彼女の足が砂を蹴った。

 だが、その瞬間――誰も予期せぬことが起きた。

 ドガゴンッ……!

 修練場の天井が突然激しい振動音を立てて割れた。

 石材が崩れ落ち、辺りに土煙が渦巻いた。

 地震のような轟音が場全体を震わせた。

 ワコトは後ずさり、刀の柄に手をかけたまま煙の奥を睨んだ。

「なんだっ……!?」

 土煙がゆっくりと晴れ、中央に黒い影が浮かび上がった。

 ミツヒ――あの裏切り者の女侍が、小脇に気絶したクラノを抱えていた。

 彼女の黒髪が優しく揺れ、唇に冷たい笑みを浮かべていた。

 周囲には十人の全身黒装束の黒子忍者が無音で佇んでいた。

 空気が一瞬で殺気に染まった。

 ミツヒの視線がゆっくりとキラリに向けられた。

 クラノの無防備な体を人質のように抱え、彼女の声が甘く、しかし毒のように響いた。

「ふふ……お久しぶりね、皆さん」

 ワコトの顔が怒りに歪んだ。

 刀を抜きながら叫び声を上げた。

「師範方! 逆賊だ! 捉えるぞ!」

 空気が凍りついた。

 土煙の残滓がゆっくりと舞い落ちた。

 第三試合は突然の闇に飲み込まれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ