表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KILARe:  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/36

第26話

 第一試合の余韻が、皆の胸に冷たい棘を残していた。

 ワコトの声が、再び雷鳴のように響き渡った。

「第二試合を始める。組み合わせは、キラリ班のマシロ対雪の国レヴナ」

 マシロは一歩前に出た。

「よし……平常心だ、平常心」

 砂地に降り立つマシロの足音が、乾いた砂を軽く軋ませた。

 対する雪の国側の生徒は、ゆっくりと白線まで進み出た。

 その姿に、ギャラリーからどよめきが漏れた。

 肌着のような薄い布一枚――上下に分かれた簡素な装束が、少女の純白でしなやかな体躯をほとんど隠さなかった。

 長い銀髪が背中を流れ落ちた。

 少女の瞳は氷のように冷たく輝き、唇には不敵な笑みが浮かんでいた。

 雪の国の戦士らしい――肉体そのものが武器を思わせるほど、鍛え抜かれた筋肉が布地の下でうねっていた。

 マシロの顔がぱっと赤らんだ。

「あの……えっと、目のやり場に困るのですが……。もう少し、なにか着てくれませんか?」

 少女は片眉を吊り上げ、声は低く、雪崩のように響いた。

「あぁ? あちーんだからしょうがねーだろ! 文句あんのか、童貞野郎! 男のくせに、こんなもんで動揺すんな! むしろ見てーだろ! 見てーって言えよ、こちとら美少女だぞ!」

 ギャラリーから、くすくすという笑い声が漏れた。

 マシロの耳まで真っ赤に染まり、拳を握りしめてうつむいた。

 ギャラリーで、キラリは小さく呟いた。

「雪の国……確か、体術が得意だって聞いたことがある」

 トモエが隣で腕を組み、目を細めた。

「そうだな。寒冷地帯は身に着けるものが分厚くなる分、打撃よりも組み技が強いと聞いたことがある。接近戦に持ち込まれたら、マシロじゃ厳しいかもな……。レヴナみたいな接近型に近づかれたら、一巻の終わりだぜ」

 キラリの胸に、かすかな不安がよぎった。

 マシロの成長を信じたい。

 だが、雪の国の少女の眼光は獣のように鋭かった。

 ワコトが二人の間に割り込み、冷徹な視線で砂地を睨んだ。

「服装に問題はない。第二試合を始める。それでは、お互い白線の位置まで下がれ。名乗りを上げたら、戦闘の合図を出す」

 二人は白線まで後退した。

 マシロの息がわずかに乱れた。

 レヴナの視線が、獲物を値踏みするように彼を射抜いた。

 マシロがまず名乗りを上げた。

 口調は低いが、決意を込めて響いた。

「めぬきマシロ! 勝たせてもらう!」

 レヴナが続けて応じた。

 唇を歪め、拳を軽く鳴らす音が砂地に木霊した。

「ろしきレヴナ。ボコボコにしてやるよ!」

 ワコトの視線が二人の間に落ちた。

 空気が張りつめた糸のように引き絞られた。

「それでは、第二試合――初め!」

 合図の瞬間、レヴナの体が爆発したように動き出した。

 ダッシュの足音が砂を蹴散らし、空気を震わせた。

「最短でキメてやるよ! 覚悟しな!」

 マシロはそれを予測していたかのように、懐から撒菱を散らした。

 小さな棘の塊が砂地にきらめいた。

「これで近づけないだろ!」

 レヴナの足が一瞬止まった。

 だが、少女は歯を食いしばり、飛び越えた。

 体が宙を舞い、拳を握りしめてマシロに迫った。

「だからどうした! こんな小細工、効くかよ!」

「それも読んでるんだよ!」

 マシロは砂に片足の先を突っ込み、一歩後ろに下がりながら砂を蹴り上げた。

 乾いた砂粒が舞い上がり、レヴナの視界を覆った。

「くっ……目くらましかよ!」

 レヴナは着地し、顔の砂を払った。

 その隙に、マシロは走って距離を取った。

「この距離だ!」

 そして、マシロがレヴナに向かって技を放った。

 掌から赤い気光が渦を巻き、砂地を熱く焦がした。

「――侍刀技『炎壁波』!」

 炎の壁が轟音とともにレヴナに押し寄せた。

 橙色の奔流が空気を震わせた。

「ちっ、当たるかよ!」

 レヴナは横に身を翻し、壁を避けた。

 銀髪が熱風に煽られ、布地がわずかに焦げ、少女の肌に赤い火傷の跡が浮かんだ。

「熱ぃな……だが、俺は止まらないぞ!」

 そこをマシロは狙っていた。

「当てろ。それだけだ」

 掌を弓のように構えた。

「侍刀技『火矢振』!」

 赤い矢がレヴナを襲った。

 軌跡が空気を裂き、熱気が砂地を歪めた。

 レヴナはかろうじて片手で受け止めた。

 掌が焦げ、煙が立ち上った。

 少女の息がわずかに乱れた。

「ぐっ……! やるじゃねえか!」

 マシロはその様子を伺い、息を整えながら砂地に撒菱を散らばらせた。

 彼の声が自信を帯びて響いた。

「近づけば撒菱、距離を取れば炎の壁と矢を飛ばす! 悪いが、これを繰り返させてもらうぜ!」

「てめぇそれでも侍かよ! 卑怯もんがぁ!」

 レヴナは舌打ちをし、掌の火傷を砂で叩き消した。

 痛みを嘲笑うように、少女は再び走り寄った。

 撒菱の棘が足裏を刺し、血がにじんだが、止まらなかった。

「それがどうした!」

「おい、そこには撒菱が……!」

「痛いの上等!」

 レヴナは足の痛みを無視し、突進を続けた。

 棘が肉に食い込み、血の跡を砂地に残した。

 その執念に、ギャラリーの生徒たちが息を飲んだ。

 キラリは二階から拳を握りしめ、呟いた。

「マシロ、距離を……!」

 マシロは慌てて技を放った。

「くっ――侍刀技『炎壁波』!」

 再び炎の壁がレヴナを襲った。

 熱波が少女の体を包み、布地を焦がし、肌を赤く焼いた。

 痛みの悲鳴が喉から漏れた。

「こんなもん! 気合で耐えられるんだよ!」

 しかし、壁すらも突っ切り、体を焦がしながらレヴナの拳がマシロを襲った。

 拳はマシロの頰を穿ち、衝撃が骨まで響いた。

「ぼはっ!」

 彼の体が吹き飛ばされ、砂地を転がった。

 口の中に血の味が広がり、視界が揺らぐ。

 レヴナも勢いのまま地面を転がり、布地が砂にまみれた。

 少女の体に火傷の跡が無数に浮かび、銀髪が汗で張りついた。

「っしゃおらぁ!」

 だが、レヴナは今しかないと、体を即座に起こした。

 瞳に獣のような執念が燃えた。

 痛みを燃料に、走り寄った。

 マシロは意識が朦朧としながら、体を起こした。

 頰の痛みが彼の視界を赤く染めた。

「痛ぇ……本気で殴りやがって……!」

「坊やはおねんねしてな!」

 レヴナの前蹴りがマシロの体を倒し、少女がマウントポジションを取った。

 砂が舞い上がった。

 レヴナの上から、拳が雨のように降り注いだ。

「おらおらおらおらおらおらおらおら!」

 打撃の音が砂地に鈍く響いた。

「まずい……やられる……」

 マシロは必死にガードし、腕が痺れた。

 少女の拳は重く、接近戦の恐怖が彼の胸を締めつけた。

「大人しく、やられとけよ!」

「……ヒサヒを倒すとっておきだったんだけどな。でも、ここで負けるわけにはいかねえ!」

 彼はガードの隙間から胆力を練り上げた。

 掌に赤い気光が渦を巻き、体温が急上昇した。

 そして、技を放った。

「――侍刀技『円炎層(えんえんそう)』!」

 直径三メートルほどの炎のドームが、レヴナとマシロを包み込んだ。

 橙色の壁が砂地を照らし、熱波が空気を歪めた。

 ギャラリーから驚嘆の声が上がった。

 二階で、キラリが息を飲み、呟いた。

「マシロ……!」

 レヴナの目が見開いた。

 ドーム内で熱気が少女の肌を焼いた。

 布地が焦げ、銀髪が熱風に煽られた。

「なんだ、この技は……! 熱っ……!」

 マシロは倒れたまま息を荒げ、唇を歪めて嘲った。

 ドームの内側は鍛冶の炉のように熱かった。

「知りたいか? ふふ、そりゃあ知りたくなるよな――お前みたいな熱血漢は、こんな状況でどんな切り札を隠してるのか、気になって仕方ないだろ? 心臓がドクドク鳴ってるのが、ここから聞こえてくるぜ。よし、特別に教えてやるよ。この技は、俺の体を中心に炎の円を発生させ、俺の体全体を守るための防御壁となる技だ! 全方向を炎の壁で覆うことで、どんな敵の攻撃からも身を守れる! これさえあれば、俺は安全な所でじっくり戦況を見極められるというわけだ! ――ここまで聞いてくれてありがとう、俺の勝ちだ!」

「……はぁ? 攻撃じゃ……ない……なら……」

 少女の体がふらりと傾き、意識を失ってマシロの上に倒れ込んだ。

 ドームがゆっくりと溶けるように消え、砂地に熱気が残った。

 マシロは倒れたまま、天にこぶしを突き上げた。

 彼の笑いが響いた。

「へへへ……勝ったぜ!」

 ワコトの声が即座に響いた。

「第二試合――終了! マシロの勝利!」

 ギャラリーから拍手とどよめきが沸き起こった。

 キラリは二階から駆け下り、マシロに手を差し伸べた。

 トモエも笑みを浮かべて続いた。

「マシロ、よくやった! 今のはどうやって勝ったんだ!?」

 マシロはキラリの手にすがり、体を起こした。

 頰の腫れが痛んだが、瞳は輝いていた。

「へへへ……あの技の中じゃ、長く息が続かないんだ」

 トモエが彼の肩を叩き、くすくすと笑った。

「お前らしい戦い方だな! 防御を攻撃に変えるなんてな」

 マシロは照れくさそうに頭を掻き、三人は砂地を後にした。

 次の試合が忍び寄る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ