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KILARe:  作者: 川合 佑樹


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第23話

 二日目の朝が訪れた。

 フシの山の麓は、夜の静寂を残したまま、微かな鳥のさえずりで息を吹き返していた。

 野営を張った班たちは、薪の残り火を踏み消し、朝露に濡れた装束を払いながら、第三障壁への道を睨んだ。

 一方、夜通し進行を続けた者たちは、疲労を瞳に宿した。

 それぞれの思惑が、絡み合い、静かな山道に不穏な緊張を孕んでいた。

 キラリ班の三人は、簡素な天幕を畳み終え、朝餉の残りを分け合っていた。

 キラリは刀の柄を軽く撫で、息を吐いた。

「第三障壁まであと半日……急ごう」

 刹那、轟音が天地を裂いた。

 ドガァァン!

 木々が根こそぎ倒れるような衝撃が響いた。

「危ないっ!」

 トモエは反射的に体を投げ出し、キラリとマシロを押し倒した。

 倒木の枝葉が雨のように降り注ぎ、朝陽の光が一瞬、閃いた。

 退路を断つ巨大な大木が、道を塞いだ。

 空気が土と樹脂の匂いで淀み、耳鳴りが三人の鼓膜を震わせた。

「みんな、無事か!?」

 キラリは刀を抜き、身構えた。

 心臓が早鐘のように鳴り、昨夜の安堵が一瞬で霧散した。

 トモエは短刀を閃かせ、睨んだ。

 忍者の勘が、獣の気配を捉えていた。

「敵だ……複数」

 マシロは地面を蹴って立ち上がり、掌に赤い気光を灯した。

「くそっ、朝っぱらからかよ!」

 三つの影が現れた。

 筋骨隆々の巨漢たちだった。

 リーダー格の男が、大斧を肩に担ぎ、ドスドスと土を踏みしめて進み出た。

 斧の刃は陽光を反射し、男の顔に野性的な笑みを浮かべた。

「我が名はふとうカネマ! 荒野の国の戦士なり!」

 声は雷鳴のように響いた。

 続いて、二番目の男が、斧を地面に突き立てて名乗った。

 筋肉が鎧の下でうねり、瞳に獰猛な光が宿った。

「同じく荒野の国、ふとうオマサ! 砂嵐を駆け抜ける我らの誇りを、思い知れ!」

 三人目は斧を軽く回し、土煙を巻き上げて笑った。

「ふとうダカツだ! 兄弟の絆で、どんな敵も粉砕するぜ!」

 三人は声を揃え、拳を天に掲げた。

「我ら荒野の国、ふとう三兄弟!」

 キラリ、トモエ、マシロは、思わずポカンとした。

 カネマが大斧を地面に叩きつけ、土煙を上げて声を張り上げた。

「一騎打ちを所望する! 一番強きものを出せ! 勝てば、全ての木片をくれてやる!」

 そう言うと、胸元の革袋を豪快に取り出し、地面に投げ捨てた。

 ドサッ!

 中から木片が溢れ出し、三枚とは思えない重い音が響いた。

 木片の数字がちらりと見えた。

 壱と参の組み合わせで、十を軽く超える量だった。

 キラリは目を細め、応じた。

「こちらが負けても、三枚しかないぞ。それで満足か?」

「問題ない! こんなもの、我々にとって重要ではない! 純粋な戦い、そして荒野の国こそが最強――それを知らしめること、それのみよ!」

 オマサとダカツが頷き、斧を構えた。

 三人の瞳に、獣のような闘志が燃えた。

 これは、試験のルールを超えた、誇りのぶつかり合いだった。

 トモエが短刀を軽く回し、ニヤリと笑った。

「いいね、そういうの分かりやすくて」

 カネマの微笑が深まり、斧を構えて進み出た。

「なんなら、全員相手でもいいぞ。我一人で相手してやろう!」

 ニヤリと牙を剥くその顔に、兄弟の絆が宿った。

 荒野の砂嵐を思わせる、

 圧倒的な自信。

「そうか……」

 どこからともなく、低い声が霧を裂いた。

 パチン!

 乾いた音が響き、カネマの巨体が、糸の切れた人形のようにどさっと地面に倒れ込んだ。

 斧が土に突き刺さり、土煙が舞った。

 兄弟の誇りが、一瞬で霧散した。

 オマサが目を剥き、大斧を握りしめて駆け寄った。

「カネマ! どうした!」

 ダカツも慌てて後ずさり、斧を構えた。

「なんの音だ、あれは……!」

 木陰から、三つの影がゆっくりと現れた。

 細身の侍装束に金髪をなびかせたヒサヒが歩み出た。

 傍らには眼鏡のおさげ少女チバナと、黒布で目を覆ったポニーテールのハンガ。

 ヒサヒの唇が、自信たっぷりに弧を描いた。

「おや、思ったよりあっけなかったね。それで、これで木片は頂けるのかな?」

 声は軽やかだったが、瞳の奥に獰猛な光が宿った。

 オマサが斧を振り上げ、怒りに声を震わせた。

「一体なにをした! 卑怯な……!」

 ヒサヒは肩をすくめ、チバナに視線を移した。

「それが分からないなら、俺の前に立つ資格はないな? なぁ、チバナ」

 チバナは眼鏡を押し上げ、淡々と応じた。

「先に全員倒してから余裕出してください。まだ二人生きてますよ」

 オマサの我慢が限界に達し、大斧を振り回してヒサヒに向かって走り出した。

「この野郎!」

 しかし、その瞬間。

 パチン!

 オマサの巨体が崩れるように地面に倒れ、斧が無様に転がった。

 ダカツが悲鳴を上げ、後ずさったが、ヒサヒが軽く指を鳴らした。

 パチン!

 ダカツの意識が飛び、沈むように倒れ込んだ。

 三兄弟の誇りが、無残に散った。

 木片の麻袋が、土に転がった。

 ヒサヒはチバナとハンガに振り返り、鼻息を荒くして得意げに微笑んだ。

「ほら、これでいいだろ?」

 ハンガは無表情で命令した。

「ほら、早く木片取って来いよ」

 ヒサヒは麻袋に近づいた。

 キラリ、マシロ、トモエは思わず一歩後ずさった。

 ヒサヒの指先から、気光が微かに漏れ、木片を優雅に掴んだ。

 ヒサヒがくすくすと笑った。

「どうした、臆したか? 安心したまえ。今はまだその時じゃないよ」

 そう言うと、麻袋を軽く振って木片の半分をトモエにぽいっと投げつけた。

 木片がトモエの胸に収まった。

「……なぜ俺たちを助けた?」

 ヒサヒの笑みが、曖昧に広がった。

「助けた? 違うな。俺の通る道に、小石があった――それを蹴り飛ばしたに過ぎないさ」

 視線がトモエに絡みつくように注がれ、幼馴染の影を一瞬、覗かせる。

「じゃあ、後でまた会おう」

 ハンガがヒサヒの襟を掴み、チバナが眼鏡を光らせて頷いた。

 三人は去っていった。

 キラリは刀を収め、麻袋の木片を確かめた。

「……あの技、なんだ?」

 マシロは肩を回し、笑みを浮かべた。

「でも、助かったぜ。第三障壁まで、急ごう!」

 トモエは木片を握りしめ、睨んだ。

「ああ……」

 森が、再び三人を飲み込んだ。

 第三障壁の鐘が、遠くでかすかに響いた。


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