第2話
轟音は、天地を裂く雷鳴のように響き渡った。
空を焦がす隕石は、神々の怒りを凝縮した鉄槌のように、むねまち家の屋敷に直撃した。
衝撃波が大地を震わせ、石垣が崩れ落ち、屋根瓦が雨のように降り注いだ。
庭園の桜の木は根こそぎ倒れ、枝葉が赤く輝いた。
空気は一瞬で熱く濁り、息苦しい煙が肺を焼いた。
キラリは刀を握ったままの姿勢で凍りついていた。
次の瞬間、爆風がその小さな体を吹き飛ばした。
世界が回転し、瓦礫の雨が背中を叩き、熱風が頰を焦がした。
炎の渦は獣の咆哮のように屋敷を包み込み、柱が折れ、梁が砕けた。
家族の悲鳴が一瞬だけ聞こえた気がした。
その視界は赤と黒の渦に飲み込まれ、激痛が全身を駆け巡った。
キラリは胸を押さえ、地面に爪を立てて体をよじった。
「熱い……息が、できない……」
息を吐きながら咳き込んだ。
次第に手が緩み、ゆっくりと目を閉じて体を投げ出した。
「この温かさ……なんだ……?」
唇がわずかに動き、静かな吐息が漏れた。
溢れ出る血潮のような熱だった。
肉体を焼き、魂を鍛え上げる。
どれほどの時が過ぎたのか――少年が目を開けた時、周囲は静寂に包まれていた。
空は灰色の雲に覆われ、朝の光が薄く差し込んでいた。
体は痛みに満ち、腕を動かすだけで骨が軋む音がした。
屋敷は廃墟と化していた。
崩れた壁の隙間から焦げた梁が覗き、地面には家族の遺体が横たわっていた。
父の首は不自然に曲がり、母の着物は血と煤で黒く染まっていた。
妹の小さな手が瓦礫の下から伸び、動かなかった。
その喉から嗚咽が漏れた。
「お父さん……お母さん……」
声は震え、涙が頰を伝った。
生き残ったのはわずかな使用人たちと少年だけだった――むねまち家の本家はこうして一夜にして潰えた。
残されたキラリは分家のなかご家に身を寄せることとなった。
新日本国の誇る侍の血筋――なかご家はむねまち家の傍流ながら、揺るぎない名声を持っていた。
庭園には鍛冶場があり、刀を研ぐ音が絶えず響いていた。
家督を継ぐのは長男のノカミ――十六歳、分家ながら新日本国の精鋭「十侍」の一人に選ばれた天才刀士だった。
彼の眼差しは氷のように冷静沈着で、わずかな動きにも国を背負う覚悟が宿っていた。
黒髪をきっちりと束ね、常に腰に佩く刀は家族の宝刀だった。
ノカミはキラリを本家の遺児として温かく迎え入れた。
屋敷の広間に座り、言った。
「キラリ。お前は、むねまちの血を引く者だ。ここが、お前の家でもある。ゆっくり休め」
その言葉は穏やかだが底知れぬ重みがあった。
ノカミの傍らには次男のクラノが控えていた。
キラリと同い年の八歳、無邪気な笑顔が印象的だった。
大きな瞳には好奇心が輝き、頰にはまだ幼い丸みが残っていた。
だが、その奥にかすかな影が差していた――兄の天才ぶりにいつも隠れがちな自分自身への苛立ちか、それとも家族の重圧か。
クラノはキラリに近づき、目を輝かせて尋ねた。
「隕石、怖かった? 僕、見たんだよ。空から落ちてきて、すっごい光だった!」
その無邪気さにキラリはわずかに微笑んだ。
なかご家の日常は厳しくも活気に満ちていた。
朝は皆で侍刀技の鍛錬に励み、昼は書物と茶の湯に親しみ、夕暮れには庭で刀を振るった。
キラリはそんななかご家で自分の腕を披露した。
少年は庭の中央に立った。
ノカミの視線が注がれる中、少年は素振りを始めた。
その動きはかつての天才刀士そのものだった。
流れるように刀が弧を描いた。
一撃ごとに仮想の敵を斬り伏せ、足捌きは大地を滑る水のように軽やかだった。
クラノは口をぽかんと開け、使用人たちは息を飲んだ。
ノカミさえわずかに目を細め、頷いた。
「見事だ。八歳とは思えぬ技量。本家の血は、お前の中に確かに生きている」
だが、喜びはそこまでだった。
肝心の「胆力」――魂を宿す内なる力、超人的な輝き――は微塵も湧き上がらなかった。
キラリは何度も試した。
庭で刀を振り、集中を極め、魂の深淵に呼びかけた。
だが、返ってくるのは空虚な沈黙だけだった。
胆力が発現しない姿はただの幼い少年のそれに過ぎなかった。
医者の診断は冷徹だった。
なかご家の医者、老いた侍医のジロウは白髪を揺らし、少年の脈を診ながらため息をついた。
皺だらけの手がその額に触れた。
「ふむ……体は無事じゃ。だが、心の病じゃな。隕石の衝撃が、魂の芯を砕いたのじゃろう。胆力は無理に呼び起こせば、かえって壊れるぞ」
その言葉は針のように胸を刺した。
八歳の少年にとってそれは残酷な宣告だった。
かつての天才刀士の面影――父に褒め讃えられ村の者たちに期待された輝き――は霧散し、ただの儚い少年の姿に変わっていた。
夜の寝床で少年は枕を濡らした――虚空の孤独が再び心を蝕んだ。
「なぜ……僕が一体何をした」
外では風が屋敷を叩き、遠くで狼の遠吠えがこだました。
新世界の夜は冷たく、長い。




