第14話
離れた荒野の端で、キラリ班と刀使いの戦いが始まった――遠くでハンゾウとミツヒの刃が交錯する金属音が、かすかに響き渡った。
三人は刀を抜き、構えた。
空気は重く、土の乾いた臭いが肺を満たし、息を苦しくした。
三人の心臓の鼓動が、互いの息遣いに同期した。
刀使いはゆったりと笑った。
「まぁ落ち着け、坊主たち。話しでもしようじゃないか」
キラリの声が鋭く響いた。
「敵と話すことなんてない」
刀を構えたまま、息を潜め、額の汗が一筋伝った。
刀使いの肩がすくんだ。
「そうかぁ? なんでお前らが襲われてるかくらいは、教えてやってもいいんだぜ?」
言葉が甘い誘惑のように、キラリの耳に絡みついた。
キラリの動きが止まった。
「……なにを知ってる」
声がかすれ、上擦った。
刀使いの笑みが深まった。
「そうそう、いい子にすることだ。話せば、痛い目見ずに済むかもな」
マシロの囁きがキラリの耳に届いた。
「敵の術中だぞ。三人で囲めば、倒せるかもしれない」
トモエも低く語った。
「あいつは侍としての腕が高い。ハンゾウ師範が倒せたのも、不意打ちだ。俺たちだけで戦うなら、命を懸けないと無理だろう」
キラリは頷き、心臓の鼓動を抑えた。
三人の視線が互いの背中を確かめるように交わった。
刀使いの声が響いた。
刀を軽く振り、砂を切り裂く音が荒野に木霊した。
「相談は終わったか? こっちも大将がやり合ってる最中だ。楽しもうぜ」
嘲る笑いが三人の緊張を煽った。
キラリは喉を鳴らし、問うた。
「なぜ俺たちを狙う? ミツヒの目的は、なんだ?」
「それは違うな。狙ってるのは、お前だ」
言葉が荒野の静寂を切り裂いた。
「なぜ俺を?」
刀使いの言葉がゆっくりと続いた。
「学校で習っただろう。この世界は七つの国で統治されている。それはなぜか、知っているか?」
キラリは応えた。
「各国が戦力差、経済格差によって硬直しているからだろう」
刀使いは首を振り、笑った。
「そうか。その程度のことしか教えてくれないんだな。違うんだよ。この世界に七国しかないのはな、お前のように隕石を体に宿すものが、七人しかいなかったからだ――各国の王族や指導者たちが、隕石を宿し、その力で国を統べる」
「どういうことだ?」
「俺たち侍や忍者、形は違えども、胆力を元に術式を起動する。では、胆力とはなんだ? それは隕石に宿る力だ。生命はみな、体に少なからず隕石の欠片が受け継がれ、その力こそが胆力の源だ。そして、隕石そのものを体に宿したのは、お前で八人目ということだ。お前にはな、国を治めるほどの力が眠っているというわけだ」
「そんな……でも、俺はなにも術式が発動できないのに……胆力が、ないのに」
「時間が解決するだろうと、上も考えている。お前はずっと、国に監視されてきたんだよ。そこに立っている女もそうだろ。なぁ、忍者の女――霧の国から、お前の監視で送り込まれたんだろ?」
キラリが振り向くと、トモエの瞳が目を逸らした。
「そんな……トモエ……」
キラリの呟きが風に溶けた。
トモエの声がかすかに響いた。
「……ごめん、キラリ。でも、俺は……」
刀使いの言葉が続いた。
「つまり、どこの国でもお前は欲しがられてるってわけだ。大人しくついてきたら、痛めつけたりはしねぇ。変に死なれても困るしな。それに、戦力差は分かってるんだろう? 国境を越えて入って来てる時点で、弱くないってことくらいはな」
キラリの決意が固まった。
「トモエ、マシロ――逃げてくれ。こいつは俺を殺せやしないんだ。時間稼ぎにはなる。国境まで逃げるんだ」
声に守るべきものの覚悟が滲み出た。
マシロの叫びが響いた。
「なに言ってるんだ! そんなことできるわけないだろう!」
トモエがマシロを止めた。
「マシロ、このままでは確実にお前は死ぬ。俺は任務がある。キラリは俺に任せて、お前は走って逃げろ。生きる理由があるのだろう?」
マシロの瞳が丸くなり、歯を食いしばって刀を抜いた。
刀使いの声が冷たくなった。
「坊主、抜いたら後に引けないぜ?」
嘲る笑いが荒野に広がった。
マシロの応えが荒々しく響いた。
「キラリが王とか、トモエが密偵がどうとか、俺は知らない。でもな、ここで下がるようなら、俺はいつだって逃げることになるんだよ。俺はそう教わった。だから、俺は俺のために戦うんだ! お前らにキラリを渡すくらいなら俺がこの場で切り伏せる!」
声に誇りと決意が宿り、刀の刃に赤い気光が渦巻き始めた。
キラリが刀を握りしめた。
「むねまちキラリ! 押し通る!」
刀使いの名乗りが低く響いた。
「民の国、九本刀が一人――ようざセツジ。先手は譲ってやるよ」
着物の裾が翻り、刀身が夕陽を浴びて冷たく輝いた。
トモエの横目がキラリを捉えた。
「ごめん。後でちゃんと説明するから。ここは生き残ろう」
キラリは頷いた。
トモエの叫びが荒野を裂いた。
「――忍法『活爆心』!」
筋肉が膨張し、気脈が青く脈打った。
体が加速した。
拳をセツジの顔に振り抜き、砂が舞い上がった。
「くらいやがれ!」
だが、敵は軽く躱し、腹に膝を入れた。
「ずいぶん素直な攻撃だな」
衝撃がトモエの内臓を震わせ、体が浮いたところに、後頭部へ刀の柄を振り下ろした。
ゴキン!
鈍い音が響き、トモエは地面に倒れた。
砂が顔を覆い、息が詰まった。
「ぐっ……!」
キラリが追い付き、斬りかかった。
「トモエ!」
刀の刃が弧を描き、セツジの肩口を狙った。
だが、セツジの足がわき腹を横薙ぎに蹴り飛ばした。
「その意気や良し」
衝撃が骨まで響き、キラリは土に転がった。
「くそっ……!」
息が乱れ、視界が揺らぐ。
マシロが近づき叫んだ。
「――侍刀技『炎壁波』!」
炎の壁が放たれ、赤い奔流がセツジを包んだ。
「みんな、下がれ! 奴の目をくらます!」
熱風が荒野を駆け抜け、砂を焦がし、視界を塞いだ。
だが、セツジの刀がそれを切り裂いた。
「お前が最初にこの技を放つべきだったな」
一閃が炎の壁を両断し、風圧でマシロの足がすくんだ。
熱気が彼の肌を焼くように押し戻し、刀が地面に突き刺さった。
「どうする? まだやるか?」
セツジの声が嘲るように響いた。
トモエが立ち上がろうとし、土を掻きむしった。
「まだまだだ……死ぬまで守る……キラリは……渡さない」
セツジの刀が振り下ろされた。
「はぁ……強情な奴だ。とりあえず見せしめだ。死んどけ」
「やめろぉ!」
ガキン!
キラリが刀で受け止めた。
衝撃が腕を震わせ、火花が散った。
「分かった。俺を連れていけ。みんなは助けてくれ」
トモエが足を掴み叫んだ。
「ダメだ。民の国だけには……お前を渡せねえ!」
叫びが荒野に響いた。
「だから、うるさいよお前」
セツジの刀が再度トモエへ、一閃が迫った。
マシロが飛びかかった。
「逃げろ、キラリ!」
彼の体が盾となり、セツジの刃を防ごうとした。
「あーもう」
ザシュッ!
セツジの一閃、刀が弧を描き、マシロの肩から腰へ。
「ぐあっ」
彼の着物が裂け、肉の裂ける音が響いた。
マシロは仰向けに倒れた。
「マシロ……なんで」
キラリの声が漏れた。
トモエの叫びが大地を震わせた。
「マシロ! くそっ、逃げろ、キラリ!」
ドスッ
敵の蹴りがトモエの腹を抉った。
「あーあ、斬っちゃったよ。はぁ……なんで頑張っちゃうかなぁ」
セツジの溜息が風に混じった。
全ての想いがキラリの胸で交差した――トモエの守り、マシロの決意、クラノの脆さ、ハンゾウの影、ミツヒの裏切り、隕石の秘密。
なにかが弾けた。
「ああああああああああああああああ」
魂の深淵から熱い奔流があふれ出し、毛が逆立ち、体が青白い光で染まった。
胆力が初めて爆発した。
輝きの粒子が渦を巻き、刀の刃に銀河のような輝きが宿った。
遠い記憶、星屑の旅路、吉良の怨嗟――それらが少年の瞳に宿った。
体が熱く、肺が火を噴くように息苦しく、しかし力強い。
少年は刀を構え、呟いた。
声が低く、しかし荒野全体に響いた。
「さて、斬るか」
刀の刃が夕陽を切り裂き、青白い気光が奔流となって爆発した。
三人の絆が八人目の魂を呼び覚ました。




