第10話
砂塵が舞い落ち、陽光が三人の汗ばんだ顔を優しく照らした。
ハンゾウはゆっくりと体を起こした。
裂けた道着の裾を払いながら皆に告げた。
師範の瞳が底知れぬ深みを湛えていた。
「侍や忍者、適正はなんであれ。武器も技も使うのは、振るう奴だ。そんな人間が中途半端な気持ちや、誰かに心すら預けられないままなんてのは――一番ダメだ」
ハンゾウの声は岩肌に反響した。
ハンゾウの視線がトモエに注がれた。
「トモエ。任務を受けるようになったら、その先には助けて欲しい人間がいる。一秒でも早くな、そんな所に遅刻する意味、わかるよな」
「……わかりました。師範」
トモエの声はかすかに震え、掌を固く握り、力を溜め込んだ。
キラリとマシロの視線が彼女を支えるように温かく交差した。
次にマシロへ。
柄を握る手が、まだ白く固くなっていた。
「マシロ。お前は胆力が使える。それだけでキラリより有利だ。そんなお前の将来がどうであれ、この学校にいるからには、名門として国に支えられてきた責任を伴う。半端な気持ちでいたいなら、それでもいい。だが、それはお前がどの道に進んでも付きまとう」
「……責任、ですか」
マシロの声は低く、岩を削るようにぶっきらぼうだった。
だが、瞳の奥で、なにかが溶け始めた。
半端な気持ちはただの言い訳に過ぎない――拳を緩め、土を軽く掻く仕草にわずかな解放が覗いた。
そしてキラリへ。
ハンゾウの視線が、少年の澄んだ瞳を捉えた。
「お前は……そのままでもいいんじゃないか?」
キラリが肩を落とした。
「師範……」
「冗談だ。お前はもっと人を頼れ。名門本家の当主だ。お前が揺らぐと周りも揺らぐ。お前は人を使い、人を従える存在となれ。胆力がないなら、ある奴を使え――今回のようにな」
「……はい」
キラリは笑い、マシロと目を合わせた。
彼のむすっとした顔に微笑が浮かび、互いの眼差しが静かな約束を交わした。
ハンゾウは立ち上がり、満足げに頷いた。
「ってことで、全員合格だ。そして、もう一つ言っておくことがある。お前たち三人で班になる」
その言葉に三人は息を飲んだ――空気が一瞬止まったように感じられた。
キラリの心臓が激しく鼓動し、トモエの瞳が見開き、マシロの拳が再び握られた。
「班……ですか?」
キラリの声が、かすかに上擦った。
ハンゾウは岩に寄りかかり、続けた。
「今回の追試は、実は生徒全員に行われていてな。班決めで覚悟を持ってもらうための模擬戦みたいなものだ。世の中には、俺より強い奴も、非道な奴もいる。そんな中、出会ったばかりで背中を預けられる奴なんて、一握りだ。お前らは、意外といいチームなのかもしれないぞ」
師範の声にわずかな感慨が混じった。
キラリ、トモエ、マシロ――三人は顔を見合わせた。
トモエが目を輝かせ、拳を軽く握って言った。
「へへ、楽しくなってきたな!」
マシロが照れくさそうに頭を掻き、ぼそっと応じた。
「ま、悪くねえ……」
キラリは静かに微笑み、呟いた。
「俺達が……チームか」
この瞬間、絆は確かに生まれた。
だが、安心したのか――キラリの鼻からぽたりと血が垂れた。
激しい動きの反動か、興奮が鼻腔を熱くした。
「あっ……」
キラリが慌てて押さえたが、赤い雫が土に落ちた。
トモエは、それを見て小さな悲鳴を上げた。
「きゅー」
彼女は膝から崩れ落ちた。
顔色が青ざめ、体がガクンと折れた。
「トモエ!」
キラリは駆け寄り、肩を抱いた。
マシロが声を上げた。
「おい、大丈夫なのか」
彼は慌てて近づいた。
ハンゾウは頭を掻いた。
「本当に大丈夫かね、この班」
師範の呟きに、苦笑が混じった。
鐘が、遠くで鳴り響いた。
新たな試練の始まりを告げた。




