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学院2年サラサ編 第七十六章 セリナの職業試験⑤ 職業試験

実技試験の順番を待つ間に、先に行われたのが論文筆記試験だった。

広い試験室に長机が並べられ、受験者たちは一定の間隔を保って着席する。窓から差し込む光は穏やかだが、室内の空気は重い。紙とインクの匂い、静まり返った空間、そして紙をめくる小さな音だけが響いている。


出題内容は単純だった。

「志望する職業に就いた際、どのような姿勢で職務に当たるか。また、その職に求められる資質について述べよ。」

難解な問いではない。だが、表面的な言葉では通用しない。


公職に仕える者にとって、この試験は人格の判定でもある。力があっても、志が歪んでいれば任せられない。逆に、志があっても覚悟が伴わなければ意味がない。


セリナは、筆を持つとすぐに書き始めた。

迷いは、ほとんどなかった。

彼女が綴ったのは、華美な理想論ではない。

「私はこの都市に忠誠を誓い、弱い立場にある人々を守り、安寧なる発展に寄与したいと考えています。」

その一文から始まり、具体的な思いが続く。


力を持つ者の責任。公職に仕える者の覚悟。己の感情よりも秩序を優先する姿勢。だが同時に、人の痛みを忘れないこと。

強くなりたいと願い続けてきたセリナの言葉は、どこか硬質で、しかし温度があった。


「力は誇示するためのものではなく、守るためにあると考えます。」

その文章には、これまでの稽古の日々が滲んでいる。


父との真剣勝負。教師陣との連日の稽古。自分よりも強い相手に挑み続けた時間。

それらは単に勝つためではなかった。守れる人間になるため。

その軸が、言葉の端々に現れていた。


さらに彼女は、都市への忠誠についても記した。

イーストレイクは大都市だ。人が集まり、富も集まる。だがその裏側には、治安維持の重責がある。衛兵や護衛隊が機能しなければ、秩序は簡単に崩れる。

「都市の安寧は、日々の積み重ねによって保たれるものだと考えます。」

派手な戦いよりも、地道な任務を重んじる視点。


それはセリナの現実的な気質そのものだった。

筆は止まらない。弱い人を守ること。不当な力に屈しないこと。仲間と協力すること。そして、自らを律すること。

どれも、三年間で培ってきた信念だ。


試験室の静寂の中で、セリナの筆先は確実に動き続ける。

周囲では、手が止まっている者もいる。何を書けばよいか分からず、額に汗を滲ませている生徒もいる。

だがセリナは違った。

書くべき言葉が、すでに自分の中にある。

それは背伸びした理想ではなく、すでに自分の行動原理となっているものだ。


最後に、彼女はこう締めくくった。

「私は、力を持つ者としての責任を忘れず、都市と人々のために尽くします。」

筆を置いた時、表情は穏やかだった。

緊張はある。だが、不安ではない。書いた内容に偽りはない。

それが、何よりの自信だった。


論文は静かに回収されていく。

次は実技。

だがこの時点で、セリナの芯はすでに示されていた。

強さだけではない。志と覚悟。

それが、この試験の本質だった。


論文筆記を終えた受験者たちは、順番に屋外の演習場へと移動させられた。石畳の広い訓練場は陽光に照らされているが、その空気はどこか張りつめている。

実技試験は、希望する職業のリーダー格が直々に相手を務めるとあらかじめ告げられていた。形式だけの模擬戦ではない。現場で部隊を率いる者が、その目で力量を見極める場だ。


前の組の試合が終わるたびに、空気はわずかに沈んでいった。多くの受験者が試験官の前に立ち、そして打ち砕かれていく。

一太刀で間合いを崩され、踏み込みを読まれ、型の甘さを突かれ、成す術なく弾かれる。学院で優秀とされてきた者であっても、現場の実力者の前では力の差を思い知らされる。それが現実だった。


「次、セリナ・プラム・ブロッサム。」

名を呼ばれた瞬間、周囲のざわめきが一段と強まった。学年トップクラスと名高いセリナの実力は、誰もが知っている。だが、それがどこまで通じるのかは、まだ誰も見ていない。


セリナは静かに前へ進み出た。足取りに迷いはなく、背筋は伸び、視線はまっすぐ相手を捉えている。

向かい合う試験官は壮年の男で、長年前線に立ってきたことが一目で分かる構えだった。無駄のない重心、揺るがぬ足運び。剣を構えただけで、場の空気が引き締まる。


「始め。」

合図と同時に、セリナが踏み込んだ。

最初は陣越型。低く、鋭く、一直線に間合いを詰める。刃は迷いなく相手の急所を狙うが、試験官は最小限の動きで受け流す。その反応の速さはさすがだった。

しかし、セリナはそこで止まらない。踏み込みの勢いを殺さず、流れるように背散型へと切り替える。角度を変え、軌道を変え、相手の重心を揺さぶる連撃。型の移行に一切の淀みがない。


試験官の眉がわずかに動く。今度は受けるだけでなく、反撃の気配を見せる。だが、その瞬間を読んだように、セリナはさらに踏み込んだ。

厳流型。鋭さと重さを兼ね備えた一撃が、真正面から打ち込まれる。剣と剣がぶつかり、乾いた衝撃音が石畳に響く。


試験官は初めて大きく後退した。守りに徹する形になる。周囲から小さな息を呑む音が漏れた。


セリナの呼吸は確実に荒くなっているはずだ。それでも動きは崩れない。陣越型で間合いを詰め、背散型で崩し、厳流型で圧をかける。

その切り替えは理詰めでありながら、同時に直感的でもある。相手のわずかな重心移動を逃さず、攻めの主導権を握り続ける。


単なる力任せの連撃ではない。思考し、観察し、瞬時に最適な型を選び続けている。三型すべてを自在に扱いながら、なお攻めの流れを途切れさせない。


やがて、試験官は完全に守勢に回った。反撃の機会を探りながらも、セリナの連続する圧に押され、決定打を打ち込めない。周囲を見渡せば、他の受験者たちが試験官に圧倒されていたのとは対照的に、ここでは主導権が明らかにセリナ側にあった。


観覧席に立つ教員たちの視線が集まる。食い入るように、その剣筋を追っている。型の完成度だけでなく、実戦で通用する応用力。緊張に呑まれず、自らの力を出し切る精神力。そのすべてが、この短い時間に凝縮されていた。


やがて合図がかかり、試合は終了した。

セリナはゆっくりと剣を下ろし、深く一礼する。額には汗がにじんでいるが、表情に迷いはない。やるべきことは、すべてやった。その静かな自信が、立ち姿からはっきりと伝わってきた。


結果はまだ出ていない。だがこの場にいた誰もが感じていた。あの剣は、ただの優秀な生徒のものではない。確実に、公に仕えるに足る器へと近づいている、と。


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