表面下のこだま - 静かな道の足音
少しネタバレになりますが、この短編は第五章「砕けた周波数」を補完するものです。新しいだれかさん登場します。
読後はじっくりと考え、深い気づきを得られることを願っています。どうぞお楽しみください。
私は京都大学の左京区にある法学、保健学、医学の各学部が集うキャンパスの教職員棟を歩いていた。足のかかとが静かな大地に触れるたび、その響きはまるで心の奥底に眠る、終わらない思考の繰り返しのように感じられた。
果たして、この無慈悲な病を相手に、私は何を成し遂げているのでしょう──
がん細胞は狡猾で、容赦がない。静かに、そして執拗に増殖し、周囲の組織を寄生虫のように侵食する。宿主の免疫担当、細胞傷害性Tリンパ球たちはその脅威に抵抗するが、最初の段階である、一つの異常細胞が芽生えクローン増殖が始まる前は、この病はまだ潜在的に治癒可能であると言える。
これらの悪性細胞は高度に適応し、忍耐強い。中には免疫監視を欺き、正常細胞を装うものもいる。全身的な機能低下を前に不敵な満足を得る者もいるかもしれないが、私は、検出と標的介入、つまり精密化学療法や免疫療法に相当する戦略こそが病巣を根絶しつつ、健常組織を守り得ると信じている。
しかし、適時適切な制御がなければ、病変は進展し、宿主の生物学的かつ機能的な一体性を脅かすことになるだろう。
経済的資源と身体の健康、その両立は個々人の選択に委ねられる。
果たして、その両方を手にすることが可能だろうか。
答えは、死に於いてのみ得られる。
統計的な例外は存在する。紛れもなく。
そして、あなたはその例外と言えるだろうか。
統計が示す限り、そうはあり得ない。
まあ、そろそろ帰って、自分だけの新しい茶葉のブレンドを作りながら、このひとときをゆったりと味わおうと思います